番外21-5︰エンド・オブ・ヘゲちゃんの憂鬱
「ヘゲちゃん、初めてワタシと会ったときより成長してるよね?」
ダンタリオンについての“推理”を披露している中で、アガネアはヘゲにそう言った。
「気づいてたの?」
「そりゃさすがに気づくよ。当たり前だよ。ベルトラさんも気づいてましたよね?」
「まあなあ。百頭宮がリニューアルしたから、連動するヘゲさんも変わったんだろうと」
「誰も何も言わないから、てっきりみんな気づいてないのかと思ってたわ。変化もゆっくりだったし」
ヘゲ自身、それがいつから始まったのか正確には解らなかった。
自覚したのはティルの件でアガネアと険悪になった後くらい。いつもの服がキツく感じられて、それで気がついたのだ。
もしヘゲが普段から自分の外見を気にするタイプなら、もっと早く気がついていただろう。
ヘゲはすぐにアシェトへ報告した。アシェトはじっとヘゲを見つめ、立ち上がって自分の隣に立たせると、そこでようやく驚いた。
「うお! たしかに背ぇ伸びてるな!」
「あのこれは、どういうことなのでしょうか?」
「ん? ああ、成長したんだろ。おまえは悪魔っつっても普通とは違うからな。意識の方にナリが引っ張られるんだろ。ベルゼブブの言葉を借りりゃ、おまえは精霊悪魔ってやつだ。ほとんど存在しないが、アバドンなんかは有名だろ? あいつは地獄そのものが意識と形を持ったもんだ。でな? これもベルゼブブの受け売りだが、精霊悪魔の姿ってのはベースになってる場の性質と、意識の持ってる自分のイメージで決まるらしい。おまえなら幼い子供ってとこか。実際、悪魔にしちゃすげぇ若いしな」
「つまり、私の自己イメージが変わったということですか? そんな気はしませんが。まして成長なんて……」
「そりゃ私だって正確なことは知らねぇよ。けど、成長はしただろう」
ヘゲは自分の体を見た。たしかに成長はしている。
「そうじゃねぇ。内面が、だ」
ヘゲは理解できず、眉間にシワをよせた。
「アガネアが来る前、おまえは私と仕事以外にほとんど興味なんて持ってなかっただろ。それが今じゃ他の悪魔にも目が向くようになったし、仕事以外の話もするようになった。初めて外にも出たし、うかれてアガネアぶん投げてヘコんだり立ち直ったり。他にもここ数百年で初めてのことがたくさんあったろ? 出来事も、心の動きも。経験の幅がグッと広がったんだ。そりゃ成長くらいすんだろ」
「成長、してますか?」
「ああ。おまえは前よりずっと……そうだな。豊かになったっつーか、色が増えたっつーか」
「そういうもの、でしょうか」
「ま、自分じゃなかなか解んねぇもんだ」
“アシェト様がそう言うから”という理由でヘゲは納得した。けれど肉体の変化以外に実感はないし、成長するということが自分にとってどういう意味を持つのかもよく解らなかった。
おまけに周囲の悪魔はアガネアを含め誰も何も言わないので、ヘゲもそのことをあまり気にしなかった。
アシェトでさえ、ヘゲに言われるまで気がつかなかったのだ。他の悪魔が気づかなくても当然だろう。成長するというのはその程度のことなのだと、そう思っていた。
だからアガネアから指摘され、ベルトラも気づいていたと知り、ヘゲは少し意外だった。
──まったくアガネアは。いつもなら観察力ゼロのウスノロくせに、どうしてこういうことだけ……。だからズルいのよ。
なにがズルいのかヘゲは自分でもよく解らなかったが、不思議と悪い気はしなかった。
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