方法20-1:なお、このメッセージは手動的に握りつぶされる(まだまだ気長に生きましょう)

 タニアを見つけられず戻ってきたみんなと合流して、人型になった副支配人代理のメガンに担がれて帰ったあと、痛みが取れて体力が回復するまで1週間かかった。

 帰るときに見た仙女園は破壊しつくされていて、美しい庭園の面影はどこにもなかった。


 回復するまでベルトラさんと医者以外は面会謝絶。とにかくひたすら部屋で寝てた。

 医者の話だと大量の魔力消費で衰弱したんだろうということだった。まあ、普通に誤診である。


 帰ってきたとき、ベルトラさんは真っ先にワタシを出迎えてくれて、これ以上ないってくらい褒めてくれた。

 ヘゲちゃんはソウルコレクターが離れたのと同時に意識を失い、そのまま目覚めていないという。


 ミュルス新報はその日のうちに号外を出し、翌日はまるごと事件を特集していた。見出しはこうだ。


“過去の抗争が再燃! 意外な形で決着へ”


 あとでベルトラさんに見せてもらった記事の内容によると、ワタシが“窮地を救う悪魔の一手”を思いつき、勝利に貢献したことになっていた。


“アガネア嬢は起死回生の妙手を発案したのみならず、みずからの魔力を振り絞って大規模な魅了の術を行使。魂の気配に束縛されたソウルコレクターの誘導という最難事を成功させた。


 これが並の悪魔ではとうてい不可能な偉業であることは読者諸氏にもおわかりだろう。そのため仮に思いついたとしても、あえて実行しようとは夢にも思わないはずである。


 しかしアガネア嬢にとってもこれは相当な負担を強いるものだったらしく、嬢は現在、静養中とのこと”


 ワタシがしたのは魅了の術じゃないってところを除けば合ってる。

 けど、こんなふうに大げさに褒められると、なんだか照れくさい。


 この部分は切り抜いて取っておくことにした。なんとなくギアの会の部室でも、額に入れて壁に掛けてありそうな気がする。


 他にも新聞は治安騒乱の嫌疑で仙女園に捜査が入ることなんかを伝えていた。たぶん“魂の気配”の残りや出どころ、製法なんかが狙いだろうということだった。


 タニアの消息は不明のままだ。謎の物質“魂の気配”にも注目が集まってる。

 識者インタビューなんかを読むと、本当に社会を変えるくらいのインパクトがあるらしい。


 ティルはワタシが戻る前に、迎えに来たダンタリオンと帰ってしまっていた。

 倒れたヘゲちゃんに代わって副支配人代理補佐に任命された悪魔に挨拶をして、すぐ出発したらしい。ティルはワタシに挨拶できなかったことを残念がってたとのこと。

 ただ、ワタシはダンタリオンに悪魔じゃないって見破られてたので、正直会わずにすんでほっとしてた。


 悪魔じゃないってバレたことは真っ先にベルトラさんへ報告した。ホウレンソウは社会人の基本です。

 ベルトラさんは厳しい顔でワタシの報告を聞き終えると言った。


「それ、おまえからヘゲさんかアシェトさんに直接言ったほうがいいな」

「ヘゲちゃんは?」

「まだ目覚めない。あれだけの魔法を連発したから限界を超えたんだろう、ってことになってる」


 そうだった。ヘゲちゃんが百頭宮の精で、ここと連動してるってことは秘密なんだった。


「あたしもよく解らないが、建物が再建されるか、営業再開するまでこのままかもしれない」


 傷だらけになりながら、ソウルコレクター相手に一歩も引かなかったヘゲちゃんの姿を思い出す。


「いや、外傷は治ってきてるみたいだから解らんぞ? 案外もうすぐ目覚めるかもしれない」

励ますように付け足すベルトラさん。



 そんなこんなで体を休めて、久々に外へ出られるようになったワタシを待っていたのは、すっかり変わった百頭宮だった。


 なにせチヤホヤされる。まさに英雄扱い。

 新聞でさえワタシの通り名を“魂ヲ超エル魅了ノ”アガネアに変えてインタビューに来たくらい。こりゃ勢い歌手デビューも近いか!?


 もちろんギアの会のメンバーもワタシを祝ってくれた。

 これまでも引くほど崇拝してくれてたけど、今は狂信ってレベルで正直ちょっとキモい。

 あと、Z級地下アイドルのときから応援してた娘がメジャーで大ブレイクしたファンみたいな心境なのか、やたら「私たちの」アガネア様という部分を強調してくるのが少しウザい。

 絶対的に崇め称えられて悪い気はしないけど。


「よう、社長賞」


 そう言って後ろから肩を揉んできたのはアシェトだ。なにその上司っぽい行動。というか社長賞は嬉しくないです。


「あの」


 ワタシはダンタリオンのことを報告しようとした。


「いいっていいって。しばらくゆっくりしてろ。待遇の件だろ?さすがにあれだけのことやってそのままってわけにゃいかねぇからな。また落ち着いたらな。ヘゲが動けねぇから、こっちもいま忙しいんだ」


 背中をパンと叩いて去っていった。

 これ、あとで“なんであのとき報告しなかった!”って怒られるフラグですかね。


 半壊した百頭宮は営業休止。といっても企画や広報といった一部の悪魔は大忙しだ。

 単純に再建するだけじゃなく、せっかくだからほぼ全面リニューアルしようとアシェトが言い出したから。

 ベルトラさんにしても、ライネケと一緒にメニューの練り直しや取引先への対応なんかでなかなか忙しくしてる。

 厨房の仕事はあったけど、自宅住みが出てこないのでたいしたことはない。


 ヘゲちゃんの目が覚めたって話を聞いたのはその数日後。面会を許されたのはさらにその翌日のことだった。

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