一生のお願い

「ねーねーりょうたくんってばー、お願いだからいっしょについて来てよー」

「えっ……うーん。ごめんね、さやかちゃん。それはちょっと無理というか、いやというか……」

「どうして?」

「えー、だってこわいし……」

「何よ。さやかが行くって言ってるのに、なんでりょうたくんがこわがるのよー! りょうたくんは男の子なんだからそんなこと言っちゃだめなんだよ? そういうの、意気地無しって言われちゃうんだから」

「……良いよ、別に。意気地無しでも」

「良くないの! ほら、こっち来てって」

「ちょっとちょっと! やめてよ、引っ張らないで。ぼく、本当に行きたくないんだ……」

「んーと、じゃあ『一生のお願い』!」

「え?」

「知らないの? 一生のお願いを使うとね、使われたひとは絶対にお願いを聞かなくちゃいけないの。その代わり、同じ相手には一生で一回だけしか使っちゃだめなの」

「知らないよー、そんなの。だれが決めたルールか知らないけど、とにかくぼく、やだからね」

「いやじゃないの! ルールなんだから破っちゃだめなの!」

「えー。そんなの知らないって言ってるのに……」

「文句言わないでよ。ちゃんとした理由があるんなら別に良いけど、無いでしょ?」

「…………」

「ほら、やっぱり無いんだ。だったら来てよ。早くはやく!」

「…………」

「……ねえ。りょうたくんってば!」

「──さやかちゃん。悪いけどぼくは、そのお願いを断らせてもらうことにするね」

「どうしてよ、りょ──」

「さやかちゃんは、ぼくが君のお願いを断ることを認めてくれるはずだよ。だってそれを認めてもらうことが、ぼくから君への『一生のお願い』だもん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る