実のない果実

呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)

正直者

 森の奥にある泉には、女神様がいるという。その泉に物を落としてしまうと、

「あなたが落としたのは、金の〇〇? それとも、普通の〇〇?」

 と、聞いてくるらしい。

 正直者には金の〇〇、嘘つきには返してもらえないという。



 ある日、ふたりの男が言い伝えを確かめに盾を持ってやってきた。


 片方の者は、ためらわずに盾を泉に投げた。すると、泉が光り、神秘的な女性が現れた。

「あなたが落としたのは、金の盾? それとも、普通の盾?」

「普通の盾だ、普通の!」

 投げた男は興奮気味に言う。両手を激しく動かして。その様子に女神は笑った。

「あなたは落としたのではないわ。嘘つきはきらいよ」

 そういうと、女神は消えた。


 男は愕然とした。

 ふと、となりでおろおろする男の盾をつかみ、再び泉へと投げる。すると、再び泉は光り、きらきらと輝きをまとった女神が現れた。

「あなたが落としたのは、金の盾? それとも、普通の盾?」

「俺はこいつに投げられたんだ。大事な盾を、自ら投げたりしない。お願いだ、遺品なんだ。普通の盾を、泉にお邪魔してしまった盾を返してくれ!」

 投げられた男は興奮して言う。両手を組み、懇願して。その様子に女神は微笑む。

「正直者は大好きよ。あなたの正直な心を称えて、金の盾を与えましょう」

 そういうと、女神はまとった輝きを注いだような金の盾を男に与え、消えた。


 投げた男は歓喜し、投げられた男は泣き伏せた。

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