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講堂の裏から二人を行かせ、私は正面から普通に入った。
生徒会役員と風紀委員は前の壇上に椅子を並べて座ることになっているというのに、抗いに抗いおったわあの二人。
幸い中は生徒会役員や風紀委員をめぐってざわめいており、私が後ろからこっそり最後列に入っても気づかれにくかった。
「ただいまより、洸蘭学園入学式を始めます」
生徒の人数が多いせいで今日の入学式は中等部と高等部だけ。確か昨日は幼等部と初等部、明日が大学の入学式になっている。
とはいえそれでも生徒数は多いから探すのに一苦労だ。もちろん主人公をに決まっている。
確か、長い黒髪をおさげにして、眼鏡をかけてる子……いない?
そんなはずはない。ゲームの中での本人いわく、目立たないようにしているらしいけど、身なりには徹底的に気を遣う集団の中で逆に目立ちすぎる格好をしているっていうのに。
探して探して探しまくって、分かった。
やっぱり迷子になってる!
ここで壇上確認。これ、重要。
生徒会役員、風紀委員の攻略対象全員いる! よし、ひとまずは安心だ。
探しに行こう。
「神宮寺さん?どこ行くの?」
そそくさと踵を返すと、それを見とがめたのが私の隣にいた気の弱い男子だった。
「ちょっと体調が悪くて。先に校舎に戻りますわ。保健室で大人しく寝ていれば大丈夫でしょうし」
「大丈夫?付き添おうか?」
「いえ、大丈夫ですわ。ありがとうございます」
有無を言わせない笑みで優しく優しーく断った。
……んん?何でそんなショックを受けたような顔をしてるんだい?
あぁ、私なんかに断られたのがそんなに嫌だったのね。なんかごめんよ、ほんと。
だけどこっちもこれ以上突っ込まれるのも嫌だからさ。
さっさと外に出させてもらうよ?
彼の前にいた男子が彼の肩をポンポンと叩いて慰めているようなものが見えた。
……私からも後で謝罪の意味をこめてジュースか何か奢ってあげよう。
さて、どこから探せばいいのやら。
……と、普通は思うだろうね。
私がこの学園に十二年もいて何もしていないと?まさか。そんなわけなかろう。
こんなこともあろうかと
ピピッ
「……ビンゴ」
神宮寺の系列会社に私がこっそり頼んで開発してもらった超小型ノートパソコン。
折り畳んだらスマホと変わらないぐらいの大きさだからかなり重宝してる。
そのノートパソコンで学園の監視カメラにハッキング。これで場所の特定完了だ。
プライバシーのためにいっておくと、こういったことはよほどの事情がない限りやらない。あくまでもハッキングの仕方を知っているよという具合に留めているから限りなく黒に近い灰色だ。
監視カメラについては全生徒認知済みだしね。
金持ち子息令嬢ばかりが通う学園だから万が一のことがあったらいけないと様々なところにつけてられている。あと、これは生徒会役員と風紀委員しか知らないけど、制服につけられている校章、実は発信器つき。
私が知っている理由?
それはですね……えっとぉ……生徒会室と風紀委員の部屋に盗聴器しかけました。
犯罪なのは百も承知。でも、こちとら命がかかってるんです。
さて、今から行くからそこを動かないでねー?
頼むから、面倒な人に会わないでよー?
この世界で生活してきて分かったこと。
攻略対象以外にも面倒厄介な人はかなりいる。
ほんと一体どうなってんの、この世界は!
制作者!まともな人は考えつかなんだのか!?
怒りに任せ、令嬢にあるまじき足取りで主人公の元に向かった。
近づくにつれ、主人公の姿が見え始めた。うん、間違ってない、彼女だ。
彼女は地図とにらめっこを繰り返しながらどう考えても全くの正反対の方向へ向かっている。
まさしく方向音痴であるのに疑いの余地はない。
ん?でも、主人公ってゲームの中で方向音痴なんて設定あったっけ?
……あぁ、またやらかしたのか。
バグか、バグなのか。至るところに出てくるものだ。気をつけなきゃ。
方向音痴にこの学園を一人で歩けなど、のたれ死ねと言っているようなものなのだ。いや、冗談抜きで。気づけば捜索隊を出されていたなんて話ざらにある。
ざらにあっちゃいけないと思うのは私だけじゃないよね?
ゴホン。とりあえず、声をかけよう。
入学式に出席しなかった庶民出身と余計な因縁を一部の生徒につけられてはかなわない。
「そこのあなた」
「へっ?」
「そちらは講堂じゃなくってよ。入学式へ向かわれるのでは?」
「そ、そうですっ!!迷子になってしまって」
「ご案内しますわね」
「ありがとうございます!!」
心細かったのね、目がウルウルしてる。
ダメよ、それを男に向けちゃ。思春期真っ最中の男はいつでも狼に早変わりするものなんだから。
まぁ、まだ狼の方がマシな時も彼女の場合多々あるんだけど。
いや、たとえ狼に襲われ真っ最中でも横からあたかも最初から自分のものであるかのようにかっさらっていくのが奴等か。
「……あなた、お名前は?」
「
「神宮寺奈緒ですわ。あなた一年生でしょう?私もなんですの」
「えっ!?そうなんですか!?」
主人公の高橋千鶴ちゃんは立ち止まり、おずおずと私の方を見てきた。
分かっていますとも。
私も同じ気持ちだから。
というよりこのために私の今までがあったようなものだから。
「あ、あの…その……」
「私とお友達になってくださいませんか?」
「え?………は、はい!」
高橋千鶴ちゃん……もう千鶴ちゃんでいいかな。千鶴ちゃんはとっても可愛く喜んでくれた。
あぁ、こんな純粋で可愛い子があんな男共の餌食に…。
………ならせるわけなかろう!断固阻止じゃっ!!
ここは友達として精一杯守らせてもらわねば。もちろん、他の生徒との恋愛なら滅茶苦茶応援しよう。
私は千鶴ちゃんと無事邪魔も入らず出会え、学園生活を迎えることができた。
できれば何事もなく学園生活を終えたい。
神様、お願いです。
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