求・ヤンではなくクーな人達
綾織 茅
Prologue
1
この世界が実はゲームの中の世界だとしたらどうしますか?
しかも、前世の自分がしていたゲームです。
これを初対面でいきなり聞かれたら、私ならまず熱があるかを聞く。うんと年下だったら額に手を当ててでも計ってみせよう。
……いやまぁ、これが他の人から聞かれたら、の話だけど。
問題はそう皆に聞いてまわりたいのが他ならない私自身っていうわけで。
分かってる。こんな使い古されたネタを実体験するような人間なんて現実にはいやしないって。だから、これは夢。起きたらベッドと看護師さんがお友達の入院生活がまた始まるだけ。そう、これは夢。夢は現実でなくて、夢なんだから、当然覚めるべきだよね? え? これ、覚めるよね?
これ、覚めないやつ!と自力で理解したのは、身体が幼児体型の別の誰かのになっていて、自分達のことを父様母様兄様と呼ぶ人達に私の周りをぐるりと取り囲まれた時だった。
というのも、熱と言われれば結構な頻度で繰り返していた私も、さすがに今まで知恵熱とやらには縁がなかったっていうのに。出しちゃったよねー。それもそれなりの高熱。自分でもびっくりだったけど、周りはもっとびっくりというか、右に左にと大騒ぎになってしまった。
熱でボーっとしながらも、考えるのは元いた世界の両親や友人のこと。
もう会えないのかと思うと、熱の生理現象ではなく目が潤んだ。それを見て、随分と過保護な兄様とやらは高熱の出し過ぎで私が死ぬんじゃないかと自分まで泣き始めた。さらにそれを見て、私は泣くのをやめた。だって、イケメンって何しても許されると思うでしょう? でも、違う。それは綺麗に泣いている時だけであって、こんな鼻水垂らしながらの時じゃない。乙女の理想を崩すんじゃない、バカモノ。とは言えないけど、強く、それはもう強く泣き止むようにお願いした。真顔で。
しかしまぁ、こうなってしまっては最早自分の力ではどうすることもできない。幸い今度の身体は丈夫そうだ。元の身体ではできなかった学生生活も、遊びも、なんでもできる。
……ただ、この身体の持ち主はどこへ行ってしまったんだろう? もしかして、代わりに死……いやいやいや、それでは目覚めが悪い。きっと、どこか別の場所で幸せに暮らしていてほしい。暮らしていてくれなきゃ困る!
だって、今の生活水準の高さは本来その子が甘受すべきものだ。世界に名を轟かせる神宮寺グループは旧華族の家柄でもあり、世界中の名家が集う場に招待されることが常となっているほどの御家柄。当然、そこの娘はご令嬢と呼ばれ、華よ蝶よと育てられる。まかり間違っても脱走するからとベッドに括り付けられて、仕方なくやり始めたゲームにのめり込んでやりこんでしまうような娘には育たないはず。
家族や友人のことを考えなければ、なにも悪いことばかりじゃない。
そうして私はこの世界で強かに生きていくことを決心した。
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