青春のパラグライダー

冬水涙

プロローグ

夢見る少女

 どこまでも続く無限の蒼穹に雲一つなく、ただ深い青が広がっている。

 ブルーサーマル。

 空の魅力に取りつかれた人なら、この言葉を知らない人はいない。空を目指す人にとって、しっかりとしたサーマルコンディションなのだから。


 人は誰だって一度は空に憧れたことがあると思う。

 もし鳥の目線になって、この世界を鳥瞰することができるのなら。果てしない大空を、翼を広げて飛ぶことができるのなら。

 誰もが期待に胸を膨らませながら、迷うことなく空を飛ぶことを選ぶはず。

 そしてまた一人。空の魅力に取りつかれ、この大空に飛び立った人間がいる。どうやら今日は、二人乗りのフライトみたいだ。


「私だって、自由に空を飛びたい」


 空を見上げる彼女は、いつも地上からこの光景を眺めていた。飛ぶことができない自分に劣等感を抱きつつ、毎日のようにこうしてフライヤー達を見送る。

 その時、何かが上空から落ちてきた。


「まただ……」


 空からの落とし物を求め、落下したと思われる場所まで歩を進めていく。


「えっと、たしかこの辺に……あった」


 地上に落ちた落とし物を見つけた彼女はそれを当然のように拾うと、落ちた際についたと思われる土埃を手で払い、鞄にしまった。

 空からの落とし物を集めて暮らしている彼女にとっては、これが当たり前の行動だった。そして、いつかこの落とし物を取りに来る人が現れるまで保管する。それが彼女の義務であり、この場所に居座る理由にもなっていた。


 ただ、一つだけ問題があった。

 誰一人として、空からの落とし物を取りに来た試しがない。


「今日は靴……」


 部屋に持ち帰った彼女は、拾った片方だけの靴を窓際に置いた。

 その日に拾った落とし物に関しては、こうしてわかりやすい場所に置いておく。

 持ち主が来たときに、すぐ返せるように。ここにあると気づいてもらえるように。


 もし普通に空を飛べれば、直ぐにでも落とし物を返すことができるのに。

 果てしない空を見上げ、今日も彼女はずっと待ち続ける。


 いつか、この落とし物を探しに来てくれる人が現れることを祈って。

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