第48話 やきもち -Side野花茜-
「茜ちゃん、早く帰ろう!」
今日は仕事もないので講義が終わったらすずちゃんと家に帰ることにしています。
同じマンションに住んでいて、同じ女子高に通ってることがわかったらすぐに仲良くなりました。
大学も同じ学校に進学することになって、すずちゃんは私の一番の親友ですね。
女子高だったせいか、周囲に男の子はほとんどいませんでした。大学に通うようになって身近に男の子が増えたけれど、あまり話せるような気はしません。
それはすずちゃんも同じです。
だけど、隣にかわいい男の子が引っ越してきたのです。
「はいはい」
最初はすずちゃんと二人で「かわいいね」とか言ってたのですが、どうもすずちゃんはそれだけじゃなかったようで……。
――いや、私もはじめはやられてしまいましたけどね。
見事に彼に胃袋を掴まれました。
すずちゃん自身はそれなりに料理をするので、対抗意識が出るかな……と思ったりもしましたが、やっぱり私と同じだったようでやられてしまっていました。
あのカレーは反則です。
「じゃあ早く黒塚くんのいるマンションに帰りましょうか」
「ちょ、ちょっと……、黒塚くんは関係ないでしょ!」
私のからかいの言葉にすずちゃんが顔を赤らめて慌てて否定していますが、むしろその行動が肯定と言っているようなものですね。
体育祭のときに確信が持てたけれど、すずちゃんはわかりやすい。
そんな親友を、私は応援したいと思います。
自宅最寄り駅で降りて帰る途中、黒塚くんの通う学校と、私たちのマンションへと帰る方向とに分かれる交差点まで来た。
最近になってからこの時間帯にここを通ると、すずちゃんが交差点の向こう側に黒塚くんがいないか探し出すのよね。
苦笑しながらも交差点の向こう側をちらちらと確認するすずちゃんを観察していると、視線が向こう側へと固定された。
……もしかして黒塚くんがいたのかな?
「……あ」
と思ったけれど、予想と違った呻くような声が聞こえてきた。
「どうしたの? すずちゃん」
声をかけつつも私も交差点の向こう側へと視線を向けてみると、確かに黒塚くんがいた。
――知らない女の子と二人で。
嬉しそうな表情の女の子と、付かず離れずの距離で黒塚くんが俯いてこの交差点に向かって歩いている。
女の子は駅に向かうようで、交差点で信号待ちをするようだ。
そんな彼女に黒塚くんが何か言葉をかけると、女の子が嬉しそうに手を振っている。黒塚くんも小さく手を振って応えると、そのままマンション方面へと歩いて行ってしまった。
「あらら……」
チクリと胸に刺さる小さい棘に気付かないふりをしながら呟く。
隣のすずちゃんを見るけれど、去っていく黒塚くんを呆然と見送るのみだ。
「そういえば黒塚くんって……、彼女っているのかなぁ……」
黒塚くんが小さくなって判別できなくなった頃に、ぽつりと力のない声が聞こえてくる。
「どうなのかな。今までの様子だと、いない気がするけれど……」
「でも……、さっきの女の子は……?」
「うーん……、それこそ聞いてみないとわかりませんね」
「……そっか」
泣きそうな声で一言呟くと、そのままとぼとぼとマンションへと歩き出す。
それにしても……、すずちゃんちょっと落ち込みすぎじゃない?
「すずちゃん。聞いてみればいいんだよ!」
「……えっ?」
先を歩く親友が、何を言ってるの? みたいな表情で振り返る。
「ほら、いつもみたいにおすそ分けしに行けばいいじゃない。黒塚くんは私たちにもおすそ分けしてくれるけど、他にもおすそ分けするような子がいるか聞いてみればどうかな?」
これなら直接彼女がいるか聞くよりは切り出しやすいんじゃないかしら。
名案だとばかりに私はすずちゃんに、黒塚くんへおすそ分けするよう押し切りました。
それに、いつまでも沈んでいるよりは何か別のことを考えていたほうがいいはずですよね。
帰りにスーパーに寄ったけれど、さっきよりはすずちゃんの気分も持ち直しているように見えました。
「おかえり。……どうだった?」
ニコニコと笑顔で自宅へと戻ってきたすずちゃんに聞いてみます。なんとなく心配だったので、そのまま私もすずちゃんの家にお邪魔しているのでした。
表情だけ見れば悪い結果ではなかったことはわかりますが……。
ほんの二十分くらい前に、真剣な表情でタッパーを抱えて出て行った人物とは別人みたいになっています。
「うん。黒塚くんね……、わたしたち以外には、作った料理を食べた人はいないって」
「あら。そうなんですか」
私とすずちゃん以外はいないんですか……。
なんとなくですが、そう言われると私まで嬉しくなってきました。
……これはすずちゃんが単純とか馬鹿にできませんね。
「それで、彼女がいるかどうかは確認できました?」
「――あ」
そんな私の言葉にさっと顔色が変わる親友。
ええー、そこまで笑顔だと、ちゃんと彼女がいるかどうかも聞けたのかと思ったのに……。
「ど……、どうしよう」
急にすずちゃんがオロオロしだします。
「どうしようって言われても……、もう一回聞くしかないんじゃないかしら?」
「ええ……、もう無理だよ……。あ、そうだ、……ねぇ、茜ちゃん聞いてきてよ……」
縋るような眼で見つめられますが、そんなこと私も恥ずかしいに決まってます。
「そ、それはちょっと……私も恥ずかしいというか……」
……それに。
「それにそんなことすれば、……私も黒塚くんが気になってるみたいじゃないですか」
「えええっ!!?」
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