第22話 ウインドウショッピング

 美人さん二人に連れられてモールを歩く僕。

 どんな店に連れていかれるのかドキドキしながら、二人の後ろをついて歩いていく。

 それにしても周囲の視線を集めているような気がするのは気のせいだろうか。


「ちょっとあそこ寄っていいかな?」


 秋田さんが僕を振り返って尋ねるけれど、返事を待たずに指を差した店へと入って行く。

 秋田さんが入って行ったお店は、アクセサリーや小物を扱うお店だった。

 千円と三百円の商品が所狭しと並べられているようだ。


「ねぇねぇ黒塚くん。これ似合うかな?」


 猫耳カチューシャをつけた秋田さんが、いたずらっぽい笑みで僕に尋ねてきた。

 ええと、とても似合っております。美人さんに猫耳って最強なんじゃないでしょうか。

 いやしかしですね秋田さん。僕を連れてきた理由ってこれなんでしょうか。


「あっと……、とっても、その……、かわいいです……」


 なんと言っていいのかわからなかったけれど、なんとか絞り出した言葉からは本音が漏れていた。


「ふふ。じゃあこっちはどうかな」


 後ろから聞こえてきた野花さんの声に振り返ると、そこには天辺にリボンの装飾の付いたカチューシャを構える野花さんがいた。


「ていっ」


 かわいらしい声と共に手に持ったカチューシャが僕に襲い掛かり、特に引っかかりも感じられることなく頭に装着された。


「おおっ」


 あまりの出来事に呆然としていると、秋田さんから感嘆の声が上がった。

 声に釣られて秋田さんへと視線を戻すと、もう一度「おお……」という声が上がる。


「……ちょっと、何やってるんですか」


 なんとなく理不尽さを感じて非難の声を上げてを見るけれど。


「さすが黒塚くんですね」


 意味の分からない言葉が野花さんから返ってきた。

 えーっと、どういうことでしょうか?


「うんうん。黒塚くんも似合ってるよー」


 ひたすら頷きながら僕を褒める秋田さん。

 あんまり嬉しくはないはずだけれど、秋田さんに言われると悪い気がしないのはなぜだろうか。

 だからといってカチューシャを着けるのかと言われれば拒否するけれど。

 とりあえず頭に装着されたカチューシャを外して商品棚へと戻しておく。


「リボンのカチューシャが似合っても困るんですけれど……」


 正直に感想を述べてみるも、秋田さんはさらに素直だったようで。


「わたしは困らないよ?」


「……」


 小首を傾げてそう言い放つ秋田さんに僕は何も言えなくなった。


「ふふっ」


 そういった感じでいくつかお店を見て回っていると、お昼近い時間になっていた。


「そろそろお腹空いたねえ」


 ふと秋田さんがお腹を撫でながら僕を見る。


「そうですねえ」


「じゃあお昼ご飯にしますか」


「賛成ー」


「何か食べたいものありますか? ……というか僕はこのモールに頻繁に来るわけじゃないので、あんまり詳しくないですけど」


 何せ引っ越す前にもともと住んでいた家は、学校を挟んでこのモールの反対側である。

 友人に誘われて遊びに行くならともかく、自ら行こうと思うことはほとんどなかったのだ。


「そうなんだ。じゃあいつものところに行こうか」


「そうしましょうか」


「じゃあそこでお願いします」


 というわけであっさりとお昼ご飯が決まった。

 場所がわからない僕は、またもや二人について歩くしかない。

 と思っていたのだが。


「そういえば黒塚くんって、何か食べられないものってある?」


 横を歩く秋田さんに問いかけられる。


「食べられないものですか。……特には、――あ」


 ない。と言いかけて、そういえばあったと思い出す。

 正確には食べたことがないので、もしかすると食べてみればおいしいのかもしれないが、食べる勇気が出ないというか、そういう食べ物だ。


「私は納豆がダメなんですよね」


 反対側の隣から野花さんが食べられないものを挙げている。

 しかしなんとも奇遇ではある。


「そうなんですか。僕も納豆がダメなんですよね」


 苦笑しながらそう告げると、


「なんですって! 二人そろって納豆がダメなんて……!」


 秋田さんが激しく嘆いていた。


「あはは」


 僕は二人に挟まれた状態で力なく笑う。

 しかしこうして挟まれている二人を見るたびに思う。……二人とも僕より背が高い。

 これじゃあ僕は弟にしか見えないのかな……。まぁ実際に年下だし、僕の背が低いのはしょうがないよね。

 などと言い訳じみたことを考えている間にお店に到着した。


「……おかゆ?」


「そうそう。おかゆ専門店」


「へぇ……、そんなお店があるんですね」


 なかなかヘルシーっぽいお店である。そういう意味でおススメということなのだろうか。

 ということであれば、男の僕にとってはちょっと物足りないかもしれない。

 前に一組の男女が並んでいたので、僕たち三人もその後ろに並ぶ。


「メニューをどうぞー」


 並んでいると店員さんがやってきてメニューを渡してくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言って、二人の真ん中にいる僕が受け取ったメニューを開くと、秋田さんと野花さんが覗き込んでくる。

 ……二人ともちょっと顔が近い。


「あー、わたしこれにしようかなー」


 秋田さんが明太チーズおかゆを指さしている。


「じゃあ私はこれ」


 野花さんは海鮮おかゆだ。


「えっと、じゃあ僕は……、これかな」


 チキンとほうれん草のおかゆにうどんのセットだ。


「おー、いいね」


 メニューが決まった頃には前の二人が店内に案内され、ほどなく僕たちも四人席へと案内されるのだった。

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