転生~スライムだった~

樽谷

第1話 転生するらしい

「お・めでとーございまーす、なんと!なんと!な・ん・と!貴方は異世界に転生することが決まりましたー!ハイ、拍手ー、パチパチパチー」


 いつの間にか俺は記憶にない、見た事も無い薄暗い部屋に居た、目の前にはやたらテンションの高いキトン(古代ギリシャの衣服)の様なものを着た金髪ロングの美少女がいた、少女の後ろには同じような服を着、背中から白い一対の翼が生えている美女軍団が居て皆で手を叩き拍手していた……しかし、どことなく嫌そうに拍手している様に見えた。


「いや~、らっきーでしたね~これはとっても珍しいことで、めったにあることじゃないですよー! 大穴万馬券当たったー! みたいな? 宝くじの1等に当選した! ってな感じですよ! 嬉しいですよね?……ですよね?……で・す・よ・ね! 嬉しくないなんてバカなこと言わないですよね? 言ったら許しませんよ? プンプン」


(何だこの集団は、コスプレか?てか、激しくウザいな。プンプンって口で言っちゃってるし)


「返事がないですね~、無視ですか?『返事がない……ただの屍のようだ』ですか? そんなカビの生えたネタ今どきはやらないですよー、おーい」


(これ、無視しつづけたらずっと言い続けてそうだな……めんどうだな~)


「…………あの」

「はいはい、どうしましたか~、何でも聞いてください、聞きはするけど何でもは答えませんけどね! めんどう、だ・か・ら、ははははは」


(もう、イラっとしかしないこいつは、殴っちゃダメかな……でも、さすがに女の子を殴るっていうのはな……ま~ここは我慢して、とりあえず現状を聞いてみるか)


「え~と、ここはどこで、貴女は誰で、何が起こったんですか?」

「ここは境界で、私は女神リエル、後ろのは下僕で、あなたは死んじゃいました! って言うか、転生って言ったじゃないですかーバカなんですかー? プププ、バーカ、バーカ、察しろよな!」


 俺はできるだけ怒りを抑えいたって冷静ですって感じで話していたのだがリエルの態度、言動に頭が真っ白になった……もちろん怒りでだ、そして――――


 殴った、思いっきり殴った、気が付いたら殴っていた。だが、悔いはなかった。――リエルはマンガみたいに星になる勢いで面白いように吹っ飛んでいった――それを見た美女軍団からは拍手と大歓声が沸き上がった。


(なんなんだこいつは本当に女神なのか? 頭のおかしい奴にしか見えないぞ! てか、なんか後ろの人達が大歓声なんだが、拍手もさっきより大きいぞ……この人たちの主人であるらしい女神のリエルが殴られたのにこんなに大喜びって、リエル……こいつ嫌われてないか?)


「い、いきなり、この美少女女神の顔を殴りますか? 何考えてるんだか全くもう! あと、拍手と歓声! お前ら後で覚えてろよ……ただじゃおかないからな」


 結構遠くまで吹っ飛んでいったはずのリエルが、いつの間にか目の前に来ていて俺に文句を言ってから、美女軍団を殺意の目で睨んでいた。睨まれた美女軍団は我関せずと目をそらして口笛なんか吹いて知らんぷりしてる。


(うわ、自分で『美少女』女神って言っちゃったよこいつ……ま~見た目だけなら美少女かも知れないけど自分で言うか普通?)


「あ、いや、ごめん、我慢できなかった……お前がウザすぎてな」

「ウザ……ま、いいや……で、あなたの……えーと、あの、ほら……あれ? 名前なんだっけー? あれ~……ま、人間の名前なんてどうでもいいから名無しでいいか~思い出すのもめんどいしな! ははは」


(すさまじく適当な奴だな、また殴ってやろうかな……でも、このまま名前言わないとずっと名無しと、バカにした様に言い続けられるのもウザいか……仕方ないから名乗っておくか)


「……ミサキ 宏太コウタです」

「はいはい宏太ね! わかったわかった、宏太の転生権を私がこの美少女女神たる私が獲得しました~! な・の・で! 転生してもらいま~す!」


(いきなり名前を呼び捨てか! なんか軽いし馴れ馴れしいな、おい!)


「ん? ちょっと待て、俺が死んだってのも良く分かんないんだけど、あんたが転生権を獲得? 俺の転生権を?」

「ええ、私がですよ? 人間ごときが直接転生権を持つなんてもったいない! 身分をわきまえろーって感じです! あぁ~……それと、覚えてないようなんで死んだときのこと説明しときますよ、面倒なのを我慢して説明するんでありがたく聞いてください、宏太は歩いてるところに、まず車が突っ込んで来て轢かれ、それでも何とか立ち上がったとこにさらに別の車に当てられて川まで吹っ飛ばされて……結果溺死です。ちなみに、奇跡的に怪我はたいしたことなかったよ」


 リエルはどこまでも上から目線で宏太に嫌々説明した。


(ん~確か、コンビニ帰り夜道で、いきなり背中に衝撃があって熱いって感じて、その後の記憶がないな……あれで轢かれたのか? 最後は溺死? 怪我はなしだと?)


「ま~何となく死んだのは理解したんだけど、転生って生き返れるってことか?」

「ま、生き返れるっていえば生き返れるんだけど、生まれ変わって異世界への転生だよ~赤ちゃんからやり直し~記憶も引き継げるよ~やったね!」

「いや、やったねっておまえ・・・・・って、生まれ変わる? 異世界? 赤ちゃんから? 理解が追い付かないぞ、おい!」


(よく分からないな)


「とにかく別世界に行ってもらうからね~」

「唐突だな、おい! 前段階無しでいきなりすぎるだろうが……で、一応聞くけど何のために」

「なんとなく? それとなく? 遊び感覚で適当に! 女神だから何してもいいし! ははははは」


 宏太は勢いをつけて容赦なく、まったくためらうこともなく、なぜかドヤ顔で胸を張って高笑いしてるいるリエルの顔面めがけてこの世の全ての憎悪を込めたドロップキックを全力で放った、リエルが面白いように吹っ飛んで遠く得転がって行って見えなくなった。それを周りの美女たちが腹を抱えて大笑いしていたり、宏太に向かって拍手して称えたり涙を流して喜び握手を求められたりしていた。よっぽど日頃の待遇が悪く鬱憤が溜まっているのであろう。宏太は美女軍団の方に同情していた。


「ちょっとちょっと! 顔面を蹴るのはダメでしょ? 超絶美少女女神の顔ですよ? 万死に値する……いや万死でも生ぬるいくらいですよ! もう、殺しちゃいますよ? って死んでるだっけ、わはははははは」

「おい、お前……もう一発いっとくか」

「あ、すんません、調子乗ってました! 顔は止めてね、はぁと」


「やっちゃえー」「今こそ止めを」「顔を吹き飛ばせー」「宏太さんふぁいとー」「長年の支配に今こそ終止符を」等と美女軍団が好き勝手なことを叫んでいたが、(てか、最後のは何だ?)リエルが美女たちの方に振り向くと蜘蛛の子を散らすように消え去って行った、この女神様はいままであの人たちにどれだけひどい仕打ちをしていたんだろうか。


「ちっ、あいつら逃げやがったか……今度羽もいで地上に投げ捨ててやろうか……あ、地上に捨てられた方が喜んじゃうかな? やっぱりここで仕事量2倍にする方がいいか、フフフフフ」


(あー、酷いことしてる自覚はあるんだな。たち悪いな……。)


「おい! 説明! 真面目にやれよ?」


 いつまでもぶつぶつと物騒な愚痴を言っていて止まらないリエルに、いい加減早く説明するように促した。


「はぁ~、分っかりましたよ~……では、ちょっとは女神らしく本当の事を説明しますかね~説明と言うか、お願いがあるんですけどね~」


「それでその、女神様のようなお方が? 何の取り柄も無い一般的日本人の高校生でしかないこの俺に? どのようなお願いを?」

「ああ、そういえば高校2年生でしたっけね……ま、転生なんで年齢はどうでもいいんですけどね」


「私の世界がちょっと崩壊しかけてるんで、サクッと救ってもらえないかな~? と思いまして」

「いや、『何の取り柄も無い一般的日本人の高校生』って言ったよね? 世界を救うとか大それたこと、俺には無理だよ? お前が自分でどうにかできないのか? 仮にも女神なんだろ?」

「できてれば苦労はしませんよ……直接地上に降りる事ができないので異世界から使えそうな人達を送り込んじゃおうと思ったんですよ、ま~数撃ちゃ当たるかなって感じで宏太がくる以前にも何人か送ってます、これからも状況を見て追加で送り込むかもです、正直早く何とかしないと主神に怒られちゃうんであせってるんですよ~」

「ん? 主神って、リエルが一番偉いんじゃなかったのか?」

「まさか~、私の知ってる限り『神』っていうと主神ただ一柱だけですよ~私なんてただの主神の造った傀儡にしかすぎませんよ? ま~この世のほぼすべてが主神の造ったものなんですけどね、その中でも出来が良かったのが女神って感じですよー」


(え、そうなの? あんなに偉そうにしてたのに? ってか主神ってすごいな)


「とにかく、主神にばれるとやばいんで世界を救ってください、マジで!」

「ばれるとどうなる?」

「たぶん、崩壊しかけてると知った時点で世界が消されます……消されるっていうのは、滅びるのではなくて存在そのものが初めから無かったことされるってことですよ?」


(無かったことに……惑星一つ消せるほどの事象改変とか、さすが主神ってとこか……)


「なので、急いで行って欲しいので、この異世界転生ドアを通って転生おねがいしま~す」


 リエルがどこかの猫型ロボットが出しそうなドアを出してきた。


「これって……どこ〇〇ドアかよ!」


「どこでも異世界転生ドアです、どこでも異世界転生ドアです、大事な事なので繰り返してみましたー!」

「おまえ……それ、絶対に略すなよ。まぁいいや、じゃ行くよ」


 これ以上つっこむのも面倒だし長引きそうなのでそのままドアを開けて転生することにした、これ以上つっこんだら負けだ。


「いってらっしゃ~い。がんばってね~」

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