3話 ミラクル童顔口ぱっくん

 大福ねずみは、今日もぶらぶらしています。すると、地面に何か落ちていました。小さな破片です。嗅いで見ると、肉っぽい臭いがしました。食べられそうでしたが、もう少し確認が取れるまでと、やめておきました。

 しかし、またしばらく行くと、同じような破片が落ちています。よく見ると、点々と、同じような物が落ちています。なんとなく、破片をたどって終点へと向かってみました。


 すると、日が射していない狭い路地裏の隅に、何かがうずくまっています。人間のように見えました。大福ねずみは、この破片はここに座っている人間が落とした食べ物であり、ここで座ってランチタイムをしているのだと確信し、一番近い破片を食べました。そして、モグモグゴックンしながら、人間に近付いてみました。

「パンナコッタ!!」

予想外の姿に、大福ねずみは驚きました。人間の女性のようでしたが、頭や手足の先っちょのほうが崩れて腐っています。

「臭いのは遠慮します~」

これは、関わったら駄目なやつだ。早々に逃げようと決めました。


「ちょっと待って!!」

 声をかけられて、スタートダッシュが空振りします。仕方なく、息を止めつつ踏みとどまると、どうやら、女の人は生きているようです。

「ねずみさん、私が見えるの?」

女の人は、不思議なことを言いました。痛い人かもしれないと、大福ねずみが警戒しつつ頷くと、女の人は嬉しそうに話し始めました。

「私は、一世を風靡した妖怪なの。でも、みんなに忘れられてしまって、今こうして消えてしまう寸前なのよ」

「精が出ますね~」

大福ねずみは少し同情しましたが、それを伝える語彙と熱意を持ち合わせていませんでした。


「見られるのは久しぶりなの。あなたは私を信じてくれる?」

女の人は、涙声でした。よく観察すると、色っぽい可愛い子ちゃんで、しかも巨乳です。

腐った見た目と、痛い言動で気が付かなかったけれど、物凄くタイプです。

「信じる~、見えるよ~、見たいよ~、服の下!」

さらに、魅惑のボディで最高です、と付け足しました。

 すると、辺りがモヤモヤしてきて、女の人がぼんやり白く光り始めました。

「あ、助かった! 信じてもらえて助かったみたい!」

女の人が嬉しそうな声を上げました。

 一層激しくなった煙と光が収まると、そこには、どこも腐っていない女の人が立っていました。奇跡と呼ぶにふさわしい、スタイル抜群美人です。大福ねずみは、思いがけず、良いことをしたようでした。


「ぎゃ――――!」

突然、女の人が叫び出します。感動も束の間、手を押さえて涙目になっています。

「小指の先っちょが無い! 痛い!」

 見ると、手の小指が少し抉れていて、血が出ています。

 女の人はしゃがんで辺りを見回して、小指の先っちょを探し始めました。四つん這いで、道の上を舐めるように見ています。

「ねずみさん、一緒に探して下さい」

谷間に釘付けだった大福ねずみは、我に返り、そしてそれがどこにあるか閃きました。


「無理。多分、さっきオイラが食ったやつ~」


女の人は、ピタッと動きを止めました。そして、ゆっくり大福ねずみへ顔を向けます。

「なんだって――」

可愛いお顔だった女の人の口の両端が、耳まで裂けていました。

「離脱~!」

 大福ねずみは、恐ろしい口裂け女から逃げ出しました。

 逃げ切れた勝因は、スタートダッシュでした。

「おっぱいぐらい揉んどきゃよかった~」

折角、可愛い巨乳美女とお知り合いになれたと思ったのに、恐ろしい顔の口裂け女だったのです。良いこともしたはずなのに斑点が消える気配も無く、色んな意味で残念賞でした。


「お腹、ピーピーになるかなぁ~」

大福ねずみは、これからはもっと慎重に食事をしようと、心に決めました。

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