大福ねずみ物語

オサメ

はじまり、はじまり

親密度マイナスのオイラたち

1話 特別なねずみ

 大福ねずみは、特別なねずみです。和菓子の大福のような丸く白い愛らしい体に、灰色の斑点があります。さながら、カビの生えた大福のごとく、良く言えば、豆の多い豆大福ですが、灰色のブチが、みすぼらしさを強調しています。こんな姿になったのには、深い事情がありました。


 このねずみは、前世は人間だったようです。しかし、神様が、「前世で悪いことをしたお前は、多くの恨みを受けているから、試練をうけなければならない。一年間時間をやるので、そのみすぼらしいねずみの姿で、前世で行えなかった良いことを沢山しなければならない。良いことをする度に、そのしるしとして、体の灰色の斑点は消えていき……云々……」と、言っていました。


 大福ねずみは適当に聞いていたので、試練を果たせなかった時にどうなるのかまでは覚えていませんでした。そうして、現世に降り立った大福ねずみは、特別にすることもなく暇なので、多少なりとも神様の言う通りにやってみる気になっていました。


 大福ねずみは、夜行性のねずみの習性を無視して、昼に町をうろついていました。プチ都会です。すると、下水が流れるどぶ川のほうから、呻き声が聞こえてきます。覗いてみると、亀がひっくり返って呻いています。亀は大福ねずみに気がつき、声をかけてきました。

「ねずみさん、私は、自分で起き上がることが出来ません。起きるのを手伝って頂けませんか?」

亀の口調が丁寧だったので、大福ねずみは亀のもとへ駆け寄り、返事をしました。

「くさいから嫌です」

 亀は予想外の言葉を投げられたようで、口を噤み硬直しました。思わず、性格の悪さをさらしてしまった大福ねずみは、神様の言葉を思い出し、謝りました。


「正直に言い過ぎました。ごめんなさい~」

そして、泣きそうな亀を助けてあげることにしました。

 大福ねずみは、どうすれば良いかちょっと考えてから、ひっくり返っている亀のしっぽに、思い切り噛み付きました。全身全霊噛み付きました。

「ギャ――――!」

亀は、叫びました。それと共に、思いがけない激痛で、首や手足が、かつてないぐらい伸びきってつっぱり、もと通り起き上がることが出来ました。しかし、確実に筋を痛めました。

 亀は、言いたいことは沢山ありましたが、これ以上このねずみと係わってはいけないという本能の警鐘のもと、「あ、ありがとう」と言って、自分より臭い水の中へ逃げ去ってしまいました。


 大福ねずみは良いことをしたので、ちょっとは斑点が消えるだろうと体を見つめて待ってみましたが、何も変化は起こりませんでした。そこで、なぜ、消えなかったのか考えます。

「所詮、亀だしな~」

亀なんか助けても、世界は救えない。この程度の善行は我の使命にあらず。などと自分のやったことを棚にあげて、亀のせいにして納得しました。


「良いことを沢山かぁ~」

 ねずみ脳で考えながら、臭い下水道を抜け出します。良いことと言われても、心当たりも意欲も、全然ありませんでした。

「良いことって、もしかして……巨乳な可愛子ちゃんと?」

馬鹿なことを考えました。そもそも、こんな試練を受けさせられるほど、前世でどんな悪いことをしたのか、全然思い出せません。

「あっ、口が亀臭い~」

そして、当面、真面目に思い出す気も無いようでした。


「まずは、安全であったかい寝床と、食い物が必要だな~」

 まだまだ、斑点は消えそうにありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る