とあるエルフの少女と人間の青年兵士の物語

クロヒロ

第1話 エルフの少女との出会い

 目が覚めると、真っ暗で何も見えない世界が広がっていた。

 唯一の例外が、目の前でゆらゆらと揺れている焚火の炎だった。


「ここは・・・どこだ?・・・っ!」


 青年は体を動かそうとするが、全く言うことを聞いてくれなかった。それどころか、無理に動かそうとすると体中に激痛が走るので、諦めて寝ころんだままでいることにした。


 一体何故こんな事になってしまっているのか、色々考えてみたが一向に思い出せなかった。もしかしたら頭でも打ったんだろうか?いろいろと考えてしまい不安になってくる。


「あの、大丈夫ですか?」


  不安な心境のまま体中の痛みと戦っていると、いつの間にか一人の少女が自分を覗き込んでいた。


「うわっ!」


 驚いて飛び起きようとしたが、体に痛みが走っただけで全く反応してくれない。


「あ、動いてはいけません。あなたは怪我をしているのですから」


 無理に体を動かそうとしたのを見た少女は、そう言うと、自分が崖の上から落ちてきたことを教えてくれた。


 肩まで伸びている少し長めの金色の髪が、さらさらと風に揺れている。歳は自分よりも少し若いくらいだろうか?


 幸運にも自分が生きていたのは崖下が川だった事と、その側に彼女が偶然居合わせた事が要因だろう。色々考えているうちに、頭も少しは回転するようになってきたようだ。


 そしてゆっくりと思い出していた。


 自分が、魔族国家ヘレスとの戦争に参加する為に志願兵として、クルド王国の軍隊へ所属しているランディーと言う名の人間であることを・・・。



 人間と人間からは魔族と呼ばれるエルフ達の戦争が始まってからどれほどが経過しただろう。


 国境周辺では相変わらず激しい戦闘が繰り広げられていた。近々、両国間で停戦交渉が行われるとの噂もあるが、この戦闘の激しさを間近で見ている者には、とても信じられる話では無かった。


 今でもクルド王国では、軍隊に所属している訳ではない一般市民からの志願兵が後を絶たない状態だ。


 それはもちろん魔族達に家族を殺され、残された者達が立ち上がるケースもあるが、今や街中で行われている「我々の家族を殺した魔族に対抗するために起ち上がれ!」などと叫ぶプロパカンダに影響されて志願する者も多い。


 そして今現在、ここで落下の痛みに必死で耐えている青年「ランディー」もそういったプロパカンダに影響されて軍に志願した一人だ。


 しかし彼は、戦闘が始まってすぐにこの事を後悔するようになった。国境付近での魔族との戦闘中に部隊は壊滅状態に陥り、ランディー自身はなんとか逃げ切ることが出来たものの、見知らぬ土地、恐らくは敵国ヘレスで完全に迷ってしまったのだ。


「くそっ!なんでこんな事になったんだ!」


 どこに敵の兵がいるかもわからないのにランディーは声を荒げていた。集中力も相当弱っているのだろう。日も沈み視界も遮られてきた。


「そもそもあいつが・・・」


 ランディーは、自分を志願兵へと誘った友人事を恨んでいた。あいつが俺を誘いさえしなければと。しかし最終的に決断したのは自分だし、友人と一緒に打倒へレスで盛り上がったのも事実だ。それをわかっているからこそ最後の言葉は飲み込んだ。


「それにこの状況ではあいつも・・・」


 それ以上の言葉は出せなかった。そして、ほんの一瞬だった。


 そんな事を考えながら歩いていた彼の右足は、当然そこにあると思われた地面を踏めずに宙を彷徨さまよったのだ。


 ランディーは、自分が崖際を歩いていることさえ気付かないほど疲弊しきっており、集中力を欠いていた。そして目が覚めると、川原の焚火たきびの傍で寝ていたわけだ。


「そうか、俺はあの時崖から落ちて・・・・」


 ランディーは、ようやく自分がおちいった状況について理解しようとしていた。そして、冷静になればなるほど今のこの状況のおかしさに気付かざるを得なかった。


 (彼女は一体何者なんだ?)


 恐らくここは敵国へレスだろう。そしてその地にいる女性。それは果たして人間か?ランディーは、急に現実に引き戻されたような感覚に陥った。戦争をやる為に、この地にやってきた現実に。


「うわっ!」


 ランディーがそんな事を考えていると少女が自分を覗き込んでいた。目の前に少女委の顔が現れたので、驚いて声を出してしまった。そして彼女の顔をまじまじと見て、そして気付いてしまった。


 少女の瞳がみどり色に輝いており、それは彼女が魔族であることの証であった。

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