君の名は?

わかってる。

私がどんなに酷い女か。

でも、好きだったんだもの。私も。

1日くらい、夢を見させてよ。



朝起きると、彩の体になっていた。

彩は、私の大親友。


今日は彩と尊君の初デート。

先週、尊君と彩は付き合い始めた。

尊君は、私の初恋の人。

遠くから見ているだけだったけど。


さっきから鳴り響く「私」からの着信音。

彩は私用の着メロを用意してくれている。Best Friend。それが今は少し心苦しい。

聞こえない振りをして私は向かった。尊君にメールした新しい集合場所に。



待ち合わせ時間に遅れること数分。

尊君は鬼気迫る顔で走ってきた。

たった数分なのに。誠実な人。


「ご、ごめん、さっき起きて!直ぐ電話しようと思ったんだけど、走った方が早いかなって!」


その時携帯から私の曲が流れた。

急いで取り出して切断マークを押す。


「出ないの?」


「ううん大丈夫、最近迷惑電話が酷いの。」


「えっ?」


尊君は表情を歪めた。

心配してくれているのだろう。


「ありがとう。気にしなくていいよ。」


「・・そっか。わかった。気を付けなよ。」


少し間を開けて尊君はそう答えた。

優しい人。



それから私たちは夢のような時間を楽しんだ。話がとても弾む。本当の恋人のように。

今日は一生忘れられない日になるだろう。



日は沈んで別れ際、人気も疎らな交差点で彼はこう切り出した。


「今日はありがとう。そして、さよなら。」


「えっ?」


表情で分かる。

このさよならには次が無いことが。


「大好きだったんだけどな・・。ホント、残念だよ。」


「なんで!?ワケわかんない!やっぱり彩じゃないとダメなの?」


私ははっとして口をつぐんだ。

しかし、彼は驚く素振りも見せない。


気まずい沈黙。

それを切り裂くようにあの曲が鳴り響いた。


「電話、出てみなよ?それが理由。」


私は意味も分からず通話ボタンを押した。


「あっ、彩?ホントにゴメン!絶対信じてもらえないと思うんだけど、西野さんと体が入れかわっちゃったみたいなんだ。」


携帯電話が手から滑り落ちる。

地面に叩きつけられたそれはまだ、微かに私の声を垂れ流している。


「・・僕の携帯に電話しようと思ったんだけど、西野さんと連絡先交換してなかったんだよね。僕電話帳で番号全部管理してるから、恥ずかしいけど自分の番号覚えてなくて。

ホント困ったよ。でも彩に繋がって助かった!今から会えないかな?」



君は尊君じゃない。

もちろん君は私じゃない。


じゃあ。

じゃあ。

君の名は?

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