戦慄《せんりつ》のレヴァニライタメ[その他]
第一部外伝に登場。
【
ニラ、もやし、にんにく、レバ肉、輪切り唐辛子で作られた、レバニラ炒め。
発音が「レバ」ではなく「レヴァ」なのは、「そっちのがお洒落だから」という桜の好み。
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■特別短編:「魔生機甲レムロイド ~ 戦慄のレヴァニライタメ」
※第一部外伝「Act.0006」で「戦慄のレヴァニライタメ」を食べる和真(だんだんおかしくなる)の一人称視点です。
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「ず、ずいぶんと……
ためらう俺に、桜さんは「ふふ」と楽しそうだ。
「これが我が家の本当のレヴァニラ炒めよ! 先日のレヴァニラ炒めは、初めての和真君のために、少しニンニクと唐辛子の量を減らしておいたの」
「前回も、けっこう辛かったですけどね……」
少し冷や汗を流しながらも、俺は神守家名物【レヴァニラ炒め】に取り箸をのばす。
発音が「レバ」ではなく「レヴァ」なのは、「そっちのがお洒落だから」という桜さんの好みである。
そんなこだわりをもつだけあって、ごちそうになった先日のレヴァニラ炒めは、確かに美味だった。
しかし、目の前の真打ちとも言うべきレヴァニラ炒めは、見た目からして凶悪だ。
燃え盛る赤は、紅葉に染まった丘のようだ。
俺は知らない。
こんな色をしたレバニラ炒めを見たことがない。
未知の領域に、俺は武者震いする。
――いける。食欲はある。
なにしろ、香りは抜群だった。
香ばしさで俺の思考を奪う、ゴマ油の
鼻から食道を通り、まるで胃袋を痙攣させるがごとく、俺を誘惑するニンニクの
この2つは、いわば香りの四天王のナンバーワンと、ナンバーツーと言っても過言ではないだろう。
よく「所詮、奴は四天王最弱」とつぶやくような立場の奴だ。
圧倒的な存在感。
もう……この香りだけで、美味いと確信できてしまう。
はやる気持ちを抑えて、俺は取り箸でザックリとレヴァニラをとらえる。
もやしが活き活きと跳ねる。
紅葉の丘に顔を出す草のように、ニラが濃い緑を主張する。
そして、レバー。
いや。あえて敬意をこめて「レヴァ」と呼ぼう。
ずっしりと厚みのあるレヴァが、もやしの服から顔をだしている。
それで隠れているつもりだろうか。
まさに、頭隠して尻隠さず。
俺には、すべてお見通しだ!
そのまま取り皿に運ぶと、まるで名残惜しそうに湯気が後をついてくる。
ああ。香りが鼻孔をくすぐる。
――だが!
同時に刺激的な赤き閃光が鼻を衝く!
――来たな、プレッシャー! やられはせんよ!
思わずゆがむ口元を引き締めてから、まずはもやしとニラをつまむ。
――む……この見た目……やはり、このもやし……。
こんな作戦で来るとは……。
いや。この作戦が成功だと決めつけるのは早計だ。
俺は、そのまま口に運んだ。
――シャキッ!
くっ! 見事!
口の中で、シャキシャキと瑞々しく奏でる戦慄ならぬ旋律。
抜群の火加減。
桜さん、さすがだ。
さらに先日のレヴァニラ炒めでは、緑豆もやしだったのに対して、今回は大豆もやしを使用している。
たったそれだけなのに、歯ごたえが大きく変わる。
黄色い頭……いい仕事をしている。
見事な作戦と、認めざるを得ない。
舌に広がるジューシーな味わい。
広がるニラの少し青い香り。
――そこに来た、総攻撃!
ワンテンポおいて襲い来る、鋭く熱い味。
いや。それは痛み。
防御が間に合わないほど、口全体を攻め立ててくる。
――ならば、攻撃は最大の防御!
俺はそれでも口を動かし続ける。
攻めてくるのは、辛味だけではない。
同時にくる、わずかに甘く、そしてしょっぱさをともなうコク。
奴だ。
――オイスターソース!
牡蠣のうまみが凝縮された、恐るべき調味料。
俺にはこいつがいる。
ああ。うまみ。うまみ恋し、かの山!
――ここだ!
俺は酒を口に含む。
広がる芳醇。
――ああ……なんというハーモニー。
辛味が招く酒は、
美味い。美味すぎる。
十万石……はどうでもいい。
とにかく美味いのだ。
まだレヴァを口にしていないというのに、こんなに美味くていいのか?
――だめだ!
これでは、もやしとニラだけで俺の敗北だ。
やられる前にやる!
俺は、レヴァをもやしと一緒に口に運んだ。
――フワッ!
――スルッ!
――ジュッ!
ああ……来た。
この独特の歯ごたえ。
かるく歯を押しあてた時の柔らかさ。
押しこむとわずかな抵抗で沈む歯。
中がパサパサしてるなんて言わせない。
それはまさに、歯ごたえの3段コンボ!
疾風怒濤の連続技だ。
そしてわずかに苦みがともなう、癖のある大人の味。
それをニラ、ニンニク、オイスターソースが見事にフォローしている。
なんというチームワーク。
ナイスコンビネーション。
強い。強敵だ。
昔手合わせした、ル・ロウという男を思いだす。
あいつの拳に勝るとも劣らないレヴァニラ炒めだ。
――むっ!?
突然、もうひとつの食感が俺を襲う。
なんだ、これは?
つるっとした舌触り。
プリッ、コリッとした歯ごたえ。
これは……これは……。
――キクラゲか!?
先日のレヴァニラ炒めには、参加していなかった新戦力。
まさか、こんな隠し球を仕込んでいたとは。
これぞ、
黒い姿で身を隠し、俺に思いも寄らぬ一撃を加えてきた。
――くっ、殺せ!
思わず感じる敗北感。
【神守 桜】……彼女はもしかしたら、俺の師になるべき人物だったのかも知れない。
「どう? 和真君。おいしい?」
「……はい。これは止まりませんね。まるで麻薬のようですよ」
それはまさに、戦慄のレヴァニラ炒め。
敗北感に苛まれた俺は、桜さんに懇願する。
「……桜さん。白飯ありませんか?」
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■元ネタ
戦慄のレヴァンテイン
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