第16話隠れた才能4

店内で話を続ける面々。

ノリコも近くに来て話に耳を傾けているなか

小町が話を続ける。


「有利な立地に店を出したいと思う店が、その手の連中を雇い

 嫌がらせやクレームによってその店を立ち退かす。

 後には何食わぬ顔で依頼元の店が出店し、そこで多くのお金が流れる。


 ……と言っても、それはあくまで状況から推察したにすぎません。


 早期の段階で我々が感知できた案件が少ない事もあり

 残念ながら、確たる証拠を得るには至っていない」


「そ、そんなことが…」


「現実顔負けだね」


「現実でもゲームでも、

 そういう輩が考えることは似たようなものなんですよ」


小町は指でメガネを上げる。


「ですけど…

 私が貴重な植物を枯らしてしまったことは事実なので…」


アーヤの言葉に小町が返す。


「それも一概には言えませんね。

 何か刺激を加えた際に、植物が自然に枯れるよう、細工をしていた

 という可能性も考えられます」


「そんな事ができるんですか?」


「理論的には可能です。

 ですが、仮にそうだとして、証拠がない事には何ら変わりありません。

 

 せめて、その植木の現物が手元に残っていれば解析のしようもありますが

 彼らも手慣れていましてね、証拠隠滅にも抜かりがない。

 ですから我々としても、このような事態を未然に防ぐ事ができず

 もどかしい思いをしているのが現状なのです」


「じゃあやっぱり…向こうの言う通りにするしかないんでしょうか…」


ノリコが力なくつぶやく。


「そんな!おばさん!」


小町の表情も険しい。


「難しいですね…、我々も管理を任されているとはいえ、

 現実の警察のような権限を持っているわけではありません。

 運営に報告しても、よほど規模の大きな案件でもない限り

 運営が動くことはまずない。


 今、私が提案できるとすれば………

 我々のギルドに制圧要員がいます。彼らを呼んで

 力づくで魂胆を白状させる……などでしょうか」


「それは…さすがに…」


ノリコもアーヤもその案には気が引けている様子だ。


「………………」


「………………」


「ノリコさんやアーヤは真面目にお店をやってるだけなのに…

 こんな……こんな事って…!」


キリエも無念そうな表情を浮かべ

場にしばしの静寂が訪れる。


「………………」


その重い空気のなか、口を開いたのはプラチナだった。


「向こうの人の正体はとりあえず置いといてさ、

 ひとまず、その植物が手に入ればいいという事じゃないの?」


「ネビュロセチア………」


「ノリコおばさん知ってるんですか?」


ノリコの表情は暗い。

キリエの問い掛けに、小町が代わりに答える。


「ネビュロセチア。あの植物については、私どもでも調べました。

 アイテムとしての効果はありません、なので高価というと語弊があるでしょう。

 ただ、流通量が極めて少ない。


 ローシャネリアからはるか北にある、ネビュロア山脈の山頂のダンジョン、

 その最深部しか咲かないと言われるものです。

 今すぐに手に入れるのはほぼ不可能でしょう」


「……………」


「そんな……」


アーヤもキリエも落胆の色を隠せない。


「売ってないならさ、

 今日そこに行って取ってくればいいじゃない」


能天気なプラチナにキリエが反論する。


「今日行くって簡単に言っても…。

 ネビュロア山脈の場所知ってるの?

 私も行ったことはないけど、ここからだとかなり遠いって」


小町が付け加える。


「とても現実的な話ではありませんね。


 おそらく、馬車などの移動手段を用いても山のふもとまで数日

 さらに山中は足で登ってまた数日、

 いえ、その行程も生易しいものはありません。

 専門的な装備や知識のない我々では、途中で全滅するのが関の山でしょう。


 洞窟内も比較的難易度の高いダンジョンという事ですが、

 まず、そこまでたどり着けるかという問題が大きい


 だからこそ、あの花の希少性は高いんです」


「うーん。確かにめんどくさいダンジョンだったけど、

 でもあそこなら大丈夫。前にボク、行った事あるし」


「本当ですか!?プラチナさん!」


アーヤは驚き、声をあげる。


「ほお、まさか経験者がいたとは驚きです。

 ギルドの遠征か何かで?」


「ううん。ソロで」


「……ソロで?」


小町の目に疑いの色が浮かぶ。


「途中分岐が多いけど、

 最短距離で行けばそんなに難しいダンジョンじゃない。

 うまくいけば、今日中に帰ってこられるんじゃないかな?」


「…ですから、先ほども言った通り、行くまでが問題なんです。

 あなたが言っているのは行った先での話で…」


呆れ顔の小町にも、プラチナは引かない。


「じゃあ、もし移動手段があれば、どう?この案?」


他の面々は互いに顔を見合わせる。


アーヤが口を開く。


「確かに、その花が手に入れられれば一番良いですよね…」


キリエも同意する。


「うーん、それはそうなんだよね。

 そうすればもう向こうにクレームの材料はなくなる」


「…決まりだね。よし!じゃあ善は急げ!

 準備して早速行こう!」


小町がそれを遮る。


「ちょっと待ってください。アナタ、プラチナさんと言いましたか

 あの洞窟を一人で攻略したという話といい、

 どうもアナタの話には信憑性がありません、何度も言うように、

 あそこに到着するには…」


「まあまあまあ、じゃあちょっとそこの広場まで来てよ?

 乗り物をご披露するからさ。


 ちゃちゃーっと行っちゃってさ、花を取ってこようよ。

 もし、洞窟で強いモンスターが出たら

 このボクに任せなさーい!」


「いいや、この俺に任せてもらおう」


男の声が響き渡る。

見れば店内には、

常連の屈強な戦士と、その弟分らしきプレイヤーの姿があった。


「あ、戦士さん!」


「うーわでた、またあの男」


キリエは小声でつぶやく。


「盗み聞きするつもりはなかった、すまない。

 昨日の事が気になって来てみたのだが

 ドア開けても誰も気づかなかったものだから、つい話を聞いてしまった。


 どうやら、男手が必要と見受けられる。

 俺たちに、協力させてはもらえないだろうか」


「え!?で、でもそんな…申し訳ないです…」


「そうですよ、アニキ~。

 俺らがこんな事までしなくても…うごぁ!!!」


戦士のボディーブローが弟分に炸裂する。アーヤからは死角気味だ。


「この店にはいつも良くしてもらってる。

 これくらいの恩返しはさせてくれ、なあアーヤちゃん」


「………………。

 す、すみません、ありがとうございます!」


アーヤは戦士の手を取り、感謝を述べた。

途端に戦士は赤面する。


「い いや、ハハハ!

 なんの!男として当たり前の事さ!!ハハハ!」


 (この男…アーヤにいいところ見せたいだけね………。

 まあ…人手は多いほうがいいか……)


キリエは据わった目で男を見つめる。


「……いいでしょう。

 その"乗り物"とやらにも興味があります。


 ギルマスからは、店舗のためにできる事は

 なるべくするようにと言われていますので、私も同行させて頂きましょう」


と言う小町だったが、プラチナに対する疑いの目は依然消えないままだ。


「じゃ、じゃあ私も…」


声をあげたのは女店主、ノリコ。

小町が応える。


「いえ、さすがに店をもぬけの殻にするのはどうでしょう。

 向こうが接触してくる事も考えられますし、一人は残っておくべきかと」


「え、でも…私の店のトラブルなのに…

 皆さんにだけ大変な思いさせるなんて…」


「気にしないでおばさん。元々の原因は私なんだし、

 ………それに、

 この店がなくなって困るのはおばさんや私だけじゃない、

 お店に来てくれてるお客さんみんな、そう思ってるよ」


「アヤちゃん……」


「アーヤちゃんの言う通りだ女主人。

 俺もこの店には、今後も変わらず経営してもらいたいと思っている」


鉢巻きの常連戦士も後押しする。


「私なんかが残っても、変に言い包められちゃいそうだし、

 ノリコおばさんにお店にいてもらうのが一番いいんじゃない?


 あ、でも、また手下の戦士とか連れて来られちゃったら…」


とキリエ。


「では、うちのギルドから護衛の人員を手配しましょう」


小町はウィンドウからギルドコールをし、連絡を取り始める。




「みなさん………。本当にすみません。

 どうか、よろしくお願いします」


店の玄関先、ノリコは一同に深々と頭を下げた。


「うん、まかせて、おばさん」


「絶対その花を取ってくるから!」


「まかされよ!女主人!」


「えー、俺は帰らせてもらって…ゴフゥ!!」


「尽力はしてみますが…」


「大丈夫大丈夫!どんとまかせなさーい!!」



一同は店を後にして、広場へと向かうのだった。

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