第117話
雨風が再び激しくなった。雲の切れ間は消えた。
チクショウ! 神の野郎め。これじゃあ奥名先輩のもとへ駆けつけるわけにはいかない。
神はぐるりと辺りを見回した。そしてめざとく俺の姿を見つけやがった。
「認めんぞ! わしが負けたなどとは断じて認めん! 勝負はまだ終わっとらん! わしはギブアップしとらんし、この通り続行不能でもない。さあ席に着け! 20秒以内に戻れなんだら貴様の負けじゃ!」
この
しかしどうする? 腹の中のものは全部出しちまったけど、はっきり言ってもう食えない。これ以上は間違いなく例の「精力剤」の効能でぶっ倒れるのは俺になる。
すると神の前にメフィストフェレスが立ち塞がった。
「見苦しいですな、神様。審判役のあっしが公正な目で見て人間の勝ちを宣言したんですぞ」
「なにが公正じゃ。あの女悪魔もあやつの味方だったではないか。どうせおぬしも口先ではうまいこと言いながら、本心ではあやつの味方だったのじゃろうて。とにかくわしはギブアップしとらんし続行不能でもない。勝負を続けよ!」
猛烈な勢いで神がメフィストフェレスに食ってかかってる。
しかしメフィストフェレスは平然としている。いったいどうしたというのだ。
「おやおや。天の神様ともあろうお方が、ご自身の言ったことをお忘れとは」
「なんじゃと。このわしがなにを言ったというのじゃ」
「勝負の最中に神様はおっしゃいましたな。『外に出したりしたら負け』と。あっしは確かに見ましたぜ。神様の穴という穴からカレーが外に出るのを」
神はウグッと黙り込んでしまう。メフィストフェレスは続ける。
「それにこの勝負、天界ネットで中継されてますな。あらゆる天使が見てるはず。それに魔界でもだ。魔界じゃ天界ネットをハックして
神が歯ぎしりしてる。顔一杯に悔しさが満ちてる。さあ認めろ。貴様は俺に負けた。それはすなわち人類滅亡も取り消しってわけだ。俺のこの“くびき”もおしまいってわけだ。
しかし窮地に追い込まれた神はとんでもないことを言い出しやがったのだ。
「ええい! 消せぬなら“なかったこと”にしてやる。全部じゃ。カレーの勝負だけではない。メフィストフェレス、貴様との賭けも“なかったこと”にしてくれよう。この世界のすべてを、あの『例の賭け』の前の時間に戻してくれよう。ならば誰の記憶にも残らん! あらゆる記録にも残らん! わしは負けておらん! 神が負けるなどあってはならんのじゃあ!」
そして神は上を向くと両手を高々と掲げた。両の手のひらのあいだに光が集まっていく。
「まさか。
美砂ちゃんの声が響いた。
「おいやべえぞ。英介、美砂、逃げるぞ!」
「いいえ久梨亜、どこにも逃げられません。もうおしまいです。さよなら、英介さん。私、英介さんのことがす……」
それが最後だった。一瞬にして世界のすべてが神の光に飲み込まれ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます