第40話

 久梨亜の言葉に俺のやる気ゲージは急上昇。なんてったってこいつが俺に嘘つくはずがない。言うことは信頼できる。あっ、でも悪魔が「嘘つくはずがない」とか「言うことは信頼できる」ってなんかおかしくないか。


「そうか。気になってるか」

「ああ。しかもいい意味で気になってる。問題は自分でそいつを自覚してるか、ってところだが。もしそうなら英介、あんたにも充分チャンスはある」

「そうか。俺にもチャンスはあるか」

「まあ、あたしの見たところじゃあ、これからも連敗は続くだろうけどね」


 途端に俺のやる気ゲージは急降下。我ながら単純。悪魔に幸せを期待した俺がバカでした。おまけに涙まで出てきやがった。


「ひどいじゃないか久梨亜」

「おやおや、泣かせちまったか。どうせ泣くなら思いっきり泣きな。そしたらすっきりするさ。ほら、あたしの胸でお泣き」


 久梨亜は俺を招くように大きく両手を広げてみせた。その真ん中に彼女の巨乳。俺を招くように揺れている。うん、それじゃ遠慮なく。


 俺は文字通り久梨亜の胸で泣いた。“すりすり”した。心地よかった。これまで俺はデカすぎる巨乳って今ひとつ好きになれなかったんだけど。どちらかというと奥名先輩の標準サイズから美砂ちゃんのちっぱいのほうが好みだと思ってたんだけど。でもこれはいい。これは気持ちいい。俺、これを機に宗旨しゅうし替えしちゃおうかな。


「英介さん! なにやってるんですか!」


 背後から響くかわいい怒声どせい。後ろを振り返る。ただし後頭部は久梨亜の胸に押しつけたままだけど。


 美砂ちゃんが肩をいからせて立っていた。


「おう美砂か。見りゃわかんだろ。英介が泣きたいって言うからあたしの胸で泣かせてんのさ」


 しれっとしたようすの久梨亜。また再び前を向いて久梨亜の胸に顔をうずめめる俺。もう涙は出てないけどいいよね?


「だとしてもそんなところで泣かなくったってもいいじゃないですか! いったい英介さんはなんで泣いてるんですか!」


 美砂ちゃんの怒声は続く。俺の“すりすり”も続く。うわあ、柔らかくて気持ちいい。


「英介はあの『奥名先輩』ってやつと仲良くなれないって泣いてんのさ」

「だったらなんでそんなところで泣いてんですか! そういうことするから嫌われるんじゃないんですか!」


 うん、確かにそのとおりです。ハイ。


 美砂ちゃんは俺を久梨亜の胸から強引に引きはがした。すごい力だ。あの小さな体のどこにそんな力があるんだ。怒ってる女の子ってこえー。


「だいたい英介さんったらおかしいです! 女性に好かれようと思うんなら他の女性とイチャイチャしちゃダメって基本です! なのにいっつも久梨亜のことエロい目で見てるし、最低です! それにそれに……」


 俺はただひたすらこうべれて美砂ちゃんのお説教を聞いていた。でも不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地いい。あれっ? 俺ってMだったっけ? もしかしてこっちも宗旨替え?

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