第38話 奥名先輩の独白(モノローグ) その3

 自分でもどうしたらいいかわからないんです。最近自分がなんだかおかしいことはわかる。そしてその原因が恐らく瀬納君だってこともわかる。でもじゃあどうしたらいいのか、それが私にはわからないんです。


 たぶん一度彼とふたりだけでじっくり話をすればなにか解決への糸口がつかめるのかもしれません。場所は……、会社の外がいいな。お昼休みや退社後なんかじゃなくお休みのときに。ふたりだけでどこかのお洒落なカフェなんかでゆっくりと。あっ、これってまるでデートですね。違いますよ。ファミレスなんかじゃリラックスして話せないと思ったからですよ。


 そういえば最近、彼、よく私をお昼ご飯に誘ってくれるんです。私に振られたのに懲りてないんですかね。メンタル強いですね。見習わないと。

 でもそういうときって大抵彼の後ろには美砂ちゃんと久梨亜がいるんです。私は彼とふたりっきりで話したいのに。久梨亜がいくら親友だからって、こんな話聞かせられませんよ。


 あるときなんかちょうど私の仕事が一段落ついてお昼行こうかなって思ってたところに彼が誘いに来たんです。でもやっぱりあのふたりが一緒。なので私はとっさに忙しいふりして「ごめん瀬納君。私今それどころじゃないの」って断っちゃった。彼が去って行くときにチラチラ横目で見たら、彼、私のほうを何度も振り返ってました。さすがにそのときは悪いことしたかなあって思いましたけどね。


 話は違いますがこの前、彼、救急車で運ばれたんです。自宅で朝なにか悪い物を食べたんだそうです。電話を受けた彼の上司のびっくりした声がこっちまで聞こえてきましたよ。

 でも不思議なのは会社に連絡があった時点で美砂ちゃんと久梨亜が付き添ってたってこと。ふたりはいつ知ったんでしょうか。まさか同棲? 今度人事課に行って書類を見せてもらおうかな。どこに住んでるのかって。

 いけないいけない。それじゃまるでストーカーじゃないですか。やりません。言ってみただけです。たぶん家が近所なんでしょう。それで助けを求めた、そういうことでしょう。


 でも私、その知らせを聞いてドキドキしちゃった。すぐに飛んで行きたかった。おかしいですよね。彼のことはなんとも思ってないはずなのに。


 もし瀬納君からもう一度告白されたとしてもお断りする自信があります。前回と同じくキッパリと断ってやりますよ。ただ前回と違う点があるとしたら、「なんで私なんかのことが好きなの?」って聞きますね。問い詰めてやりますね。知りたいですね。ぜひ知りたい。彼の考えていることのすべてが知りたい。


 おかしいですよね。私おかしいですよね。

 だからこの文章を書きました。ここに私の今の気持ち、ぜーんぶぶちまけました。なんだかすっきりしました。


 もう寝ます。おやすみなさい。明日になればきっとみんなうまくいくでしょう。そう信じることにします。

 おやすみなさい。


 ==========


 奥名若葉はここまで書くと便せんを取り上げた。そして満足そうにうなずくと、それを読むこともなく机のそばのシュレッダーに放り込んだ。彼女はシュレッダーに吸い込まれていく便せん1枚1枚をいとおしそうに目で追っていた。すべてが吸い込まれると彼女は裁断された便せんを確認し、ひと言「よしっ!」と言った。

 そして彼女はベッドに潜り込むと、すべての心配事から解放されたかのようにすぐに眠りへと落ちていった。

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