第6話
「あーあ、なんかとんでもない一日だったな」
ため息をつきながらアパートの部屋の鍵を回す。
本当に人生最悪の日だよ。昼休みに奥名先輩に告白して撃沈したのだけでも“最悪”の名にふさわしいというのに。その後に現れたあのふたりのおかげでさらに輪を掛けてめちゃくちゃだ。まあ天使と悪魔を“ふたり”と表現していいのなら、だけど。
会社からの帰りにあのふたりが現れなかっただけまだマシか。しかし気が重いな。明日からのことを考えると。
「あいつらは『あんたの行動を監視して上に報告しなくちゃいけない』って言ってたよな。つまり明日もあさっても、そしてそれから後もずっとずっと会社で俺の行動を監視し続けるんだろうか。勘弁してくれよ。奥名先輩の誤解も解かなくっちゃならないのに。どうしてこんなことになったのか」
玄関で靴を脱ぎ、せまい廊下をゆらゆらと歩いた。早く椅子に座りたい。座って缶チューハイでも飲みながら連ドラでも見るか。ひとり暮らし最高!
しかし俺の小さな幸せへの願いは、ダイニングキッチンに入ったところでかわいい声に打ち砕かれる。
「あ、帰ってきた!」
不意に聞こえた声に考え事は一時中断。えっ、なに? 誰?
部屋が明るい。照明が
思わずまわりを見回す。そんな俺の目に最悪なものが映った。
あのふたりだ!
仲良くテーブルをはさんで俺のほうを見てやがる。椅子が3脚になっている。2脚しかなかったはずなのに。
「なな、なんでお前らがここにいるんだよ!」
昼間とは違って思わず大声が出ていた。朝鍵かけ忘れてたのか? いや、さっき確かに鍵は正しい方向に回った。鍵はかかってた。じゃあなんで? そう言えばこいつらは天使と悪魔。壁をすり抜けることができてもおかしくない。
「説明したろ。あたしらはあんたの行動を監視して上に報告しなくちゃいけないって」
「えっ、だってあれは会社の中だけの話じゃ……」
昼間の会社での悪夢がリフレインされる。
「そんなわけねえだろ。1日24時間、1千440分、8万6千400秒、それを毎日。あたしらはあんたを監視しないといけないの」
ああ、めまいが……。
「あっ、大丈夫ですか」
俺に近い位置に座っていた天使ちゃんが駆け寄ってきた。思わずふらついた俺を支えてくれる。
「あ、ありがとう」
「お仕事でお疲れなんですね。どうぞ座ってください。すぐにお茶入れますから」
ふんわりとしたいい香りが俺の鼻をくすぐる。いい子だ。それにかわいい。
ああ、こんな子が毎日迎えてくれたらいいだろうな。
いや、いやいかん。俺は奥名先輩ひとすじなんだ。あぶなかった。危うくぐらつくところだった。
けど、ちょっとだけだったからいいよね。
天使ちゃんが入れてくれたお茶を飲んだらちょっと落ち着いた。俺が大丈夫そうなので安心したのか天使ちゃんはニコニコしながら俺のほうを見てる。一方の黒の悪魔のほうはと見れば……。
脚組んで片手でお茶飲みながら値踏みするような目つきでこっちを見てやがる。なんでお前まで天使ちゃんにお茶入れてもらってんだよ。自分で入れろよ。
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