42話 初めての全体会議

天気は快晴。運動会日和だ。


 村人はぞろぞろと村の北側へ向かう。

 俺たちも流れるまま北側へ。

 北の森と村の間の平原に高さ一メートルぐらいの岩がある。

 村人は岩を中心にバラバラ集まって、談笑している。


 岩から二十メートルぐらい離れた一角に何やら人が集まっている。


「お、いい匂い」


 中心には大き目のたき火があり、肉を焼いている。

 焼いているのはハンターの面々だ。


「お、アカイちゃん」

「あ、リーダー」

「へへへ、村名物ワニの串焼きだぜ」

「わ、ワニなんですね!?」

「おう、村人のみんなには世話になってるからな、年に一度のお礼ってわけさ」

「へぇ~」

「ちょっと待ってな。お~い、三本くれ!」

「あいよ!」


 ワニ串を三本貰った。

 白っぽい肉だ。塩で味付けされている。

 お、こりゃいいな、ジューシーだ。

 ワニの肉は、オーストラリアで食えるってのは知ってたけど、

 初体験が異世界ってのもオツなもんだ。


「しかしあれだな、ワニ食べたり、トカゲ食べたりゲテモノ食いになったもんだな」

「ハグハグハグ」


 先生はゲテモノ食いな自分を笑った。

 設楽さんは黙々と食べる。


「まぁ、美味しいし。虫とかじゃなきゃ大丈夫ですよ」

「ははは、そのうち虫も出てくるかもよ」

「わ、笑えませんね」


 ただ焼いただけっぽいワニ肉もかなり美味しい。

 祭りの屋台で出てきそうな一品だ。ほんと食材にステ全振りしたワールドだぜ。


 ぶぉおーぉー!

 ワニの日も聞いたホラ貝の音だ。いい音だな。

 この世界でも音楽はあるんだろうか。


 リーダーがワニ肉を齧りながら寄ってきた。


「お、もうそんな時間か」

「何が始まるんですか?」

「そっか初めてだったな」

「たしか家ごとに欲しいものを確認するんですよね」

「そいつぁ~後だな」

「後?」

「そもそもそんなに欲しいものを言うやつはいないんだよ」

「そうなんですか?」

「大半の奴は前回とほぼ同じでいいだろうし、季節ごとに必要なものは村長が把握してるしな」

「むむ、じゃぁなんのために集会するんですか?」

「半分は惰性だな。毎回やってるからだ」


 ダメな会議みたいな理由だ。


「もう半分は?」

「定期連絡だな。昨今の近況を共有する。」

「へ~、なるほど~」

「へっへっへ」


 いつも以上にニヤニヤしてるリーダー。


「な、なんですか?」

「人ごとって感じだな、やれやれ」

「へ?」

「まいいさ、そろそろ始まるぞ」


 岩の周りに村人の大半が集合した。村長が石の上に立つ。

 人が多すぎてあんまり見えないけど、まぁいっか。


「ゴホン、あーあー」


 お、村長が喋りだすみたいだ。


「お疲れ!! 皆の衆!!」


 っぇえ!?声でか!遠巻きの外れにいる俺にまでハッキリ聞こえる。

 そ、村長、でかい声なんで出す人なのかよ。

 いつもボソボソ喋ってるイメージなのに。


「あーー! 今回もまずは! 王都で購入してくるものを発表する!!」


 メモを取り出した。


「いつも通り、塩と香辛料各種!!

 あとは日用品として石鹸と、脱臭草を購入する!!」


 生活必需品って感じだな。脱臭草はトイレ用の草だったな。懐かしい。


「今回は火打石と、不足していた鉄鉱石の購入をおこなう!!」


 火打石か。人間火打石のオイラにゃあんまり必要ないけど、大事だよな。


「前回伝えたが、王都は物価が高騰している!!

 そのため、前回は鉄鉱石が購入できず皆には苦労を掛けた!!」


 へぇ~


「だが今回は違う! 皆の努力の甲斐もあり、気候にも恵まれ、多くの作物が実った!

 また、ハンター達もワニをはじめ、狩りも非常に順調だった!」


 ほほう。


「そしてなにより!! 西側からやってきた3名の功績が非常に大きい!!」


 へ?


「貴重な、ホールラビットの革は五十枚を超えた!

 そしてストライクバードの卵はなんと二十三個だ!!」

「「「「おぉぉぉぉ~~~」」」」


 村人からの歓声と視線がこちらに向けられる。

 ちょっと待ってくれ恥ずかしい。


「へへ、そりゃそうだ、おい歓声にこたえてやれよ、ガハハ」

「三名の新たな仲間に拍手!!」


 万雷の拍手に迎えられる。

 リーダーに「手でも振れよ」と促されたが、どうしていいのか迷うぎこちない俺。

 呑気に手を振る先生。

 どーでもよさそうな設楽さん。


 こ、こりゃ恥ずかしいぜ!

 嬉し恥ずかしで顔が真っ赤だ。

 褒めるのは慣れてるけど、褒められるのは慣れてない。


「あー、ゴホン」

「三人の協力もあり、今回はかなり潤沢に資金がある!!

 よって、必要物資は可能な限り購入してこよう!

 他に何か希望がある場合は、ディーンに言ってくれ!」


「何か質問はあるか!!?」


 村人は満足した雰囲気だ。


「ではワシからは以上だ!!」



 村長のでかい声に驚いたのも忘れちまうほど驚いたぜ。

 でもこれで村の一員と認められた気がして、温かい気持ちになる三人だった。


――――


「はぁ、驚いたね」

「ははは、全くだよ」


 ハンターのみんなや、ロッシさんアイシャさんメグさん達に挨拶されて、

 ほかの村人の人からも感謝された。


 村人は帰る人、ワニ肉食う人、ディーンさんに要望を伝える人。

 まさに祭りの後って状態だ。

 うちの姫様はそんなのどーでもよさそうだ。


「用が無いなら帰りましょう」

「あ、ちょっと待ってて」


 俺は村長のところに向かった。


「村長!」

「ん?なんだお前か」

「さっきはありがとうございました」

「そのまま報告したにすぎん」

「ははは、ありがとうございます」

「それだけか?」

「そうですね、あ、今後もがんばります」

「そうか。期待しとる」


 村長は去って行った。

 なんか、憎めない人だなぁ。ギャップのあるおじさんだ。


「お待たせ」

「村長にごあいさつか」

「そうですね、一緒でも良かったんですけど……」

「いや~」


 二人は未だに苦手みたいだな。


 さて! これにて王都にいくまでの重要事項は済んだ。

 あと二日、三日目の朝には出発だ。

 明日は狩り、明後日は休み予定だったが明日の狩りはやめた。

 ホールラビットは捕まえられそうにないし、今いくと山菜採りしかできなさそうだからだ。


 てことで俺たちはとあるものの製作に取り掛かることにした。

 まぁ、先生のリクエストなんだけどね。

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