見えないからこそ見えるもの

ラキヘンテ

見えないからこそ見えるもの

 僕は家に居る時良く耳を澄ませて外の音を聞く。

 鳥の鳴き声、焼き芋屋のトラックから流れる音、その物を見なければ人間が捕らえる事の出来る情報の殆どは音だけ、人間の五感の殆どは目からの情報、それを無くした時、目が見えなくなったとき、家の中から外の音を聞く時、どんな時だって見えなくても頭に物は浮かぶ、そしてコートを着て外に出かけるといつもとは違った景色が見える。小さい頃に僕の父親は交通事故で亡くなった為、父親の顔はどんな分からない。しかし、どんな人だったか等は家にあった物で分かる。僕が今来ているこのコートだって父親が死んでから家にあったのを僕が貰った物だし、電車の運転手をしていた僕の父親の事を考えれば、僕の父親がどんな人かが分からなくても電車に乗るたびどんな人だったのかと考える。見えないからこそ見えるもの、見えないからこそ聞こえるもの、知らないからこそ考えるもの。世の中は疑問や不公平な事で満ちているけれど、その場に立ってみないと分からない発見がある。

 僕は父親がどんな人なのかを知りたがった、だから今日も耳を澄ませて、父親のコートを着て、憧れの音が聞こえる所に働きに行く、そう電車の運転席へ。 byラキヘンテ


元http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=404722

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