7. 五十猛、マニュアル撮影への拘りを捨てる
衣替えの季節となった。男子の制服は詰襟に、女子は黒地のセーラー服へと変わった。ちなみに、ミニスカートが流行ったのは過去の話となっていて、今は膝下まであるロングスカートが主流だ。
そんなある日、廊下を歩いていると、神西さんに呼び止められた。
「五十猛」
「あ、神西さん、こんにちは」
「文芸部のブログの写真、君が撮ってるんだって?」
文化部ではイントラネット上にブログを立てて、生徒や教師が随時閲覧できるようになっている。
「はい、下手くそですけど」
「ああ下手くそだ」
僕はうっと言葉に詰まった。
「いや、それは冗談だ」
「冗談に聞こえません」
実際、構図のセンスなら純さんや由佳ちゃん達の方が上だろう。
「神社の境内とか史跡とか、意外と暗いだろう?」
「そうなんですよ」
文芸部は寺社や史跡を巡ったりすることが多い。山陰地方は昼間でも雲が低く垂れこめて昼間でも薄暗いことがある。特に神社の境内は昼間でも薄暗かったりする。
僕のZX300も開放F2.8と明るめのレンズを積んでいるのだけど、それでも場合によってはISO800まで感度が上がってざらついた写真になることがしばしばだった。ここら辺は小型センサーの弱点だ。
最近では裏面照射式CMOSの採用が増えているけれど、生憎とZX300は普通のCMOSだ。
神西さんはちょうど持ち歩いていたデジカメを見せてくれた。ノクチンDD54。開放値F2.0-4.0と明るいレンズを積んだ高級コンデジだ。
軍艦部にダイヤルが三つある――モードダイヤルに露出補正ダイヤル、クイックメニュダイヤル――モデルで、がたいの大きな神西さんには似合っている。
「こいつは明るいレンズを積んでるモデルなんだ」
「ええと、シャッタースピードが稼げるんですよね?」
このカメラならZX300より一段速いシャッタースピードで撮影できる。その分低感度で撮ることもできるし、手振れもし難くなる。
「そう。風景や史跡撮りなら、ブリッジカメラじゃなくてこのタイプの方が君に向いてたのかもな」
「ああ――」
僕は照れ笑いした。
「近頃はプログラムシフトばかりで」
「飽きっぽいんだな……」
ガクッとなった神西さんだった。
ちなみにプログアムシフトとは、あらかじめ露出とシャッタースピードの組み合わせが何パターンかあって、どちらか一方のパラメーターを変えれば、もう一方も適正露出になるように組み合されている仕組みだ。AUTOで撮るよりは自由度が高い。
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