第19話 デート

 もう日付が変わろうとしている頃、まだ眠気を感じない俺は暗闇の天井を眺めながら、今日あった事を考えていた。


「謎の人物か……」


 特に不思議な事でもないのだが、山田さんの言っていたその人の行動に、何か引っかかるものを感じていた。


「変質者って訳でもないんだよな、きっと」


 今まで進展が無かった調査に、唯一の手がかりらしいものを掴めたのだが、それはあまりにも曖昧で、確実性もなく、本当にただの見間違いではないかと疑いたくなるような、ほんの些細な情報だった。


「何もないよりはマシだと思うけど……」


 やはり情報が足りない。

 ならば次に取るべき行動は──


「直接本人に聞いてみるしかないか」


 だがその人物がまた現れる保証は無い。唯一の情報は休日の夕方以降に現れたことだけだ。

 それだけでは足りないし、取り越し苦労になる可能性の方が高いと思えた。


「今度、しおんにも話してみよう」


 そう考える内にまぶたに重みを感じた俺は、気付かぬうちに夢の中に引きずり込まれていった。



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「張り込み……ですか?」


 部室に入るなり、提案した俺の言葉にしおんが首を傾げる。


「うん、山田さんの言ってたその人物を直接つかまえて、話を聞けたらなって思って」


「なるほど……」


 彼女は少し思案顔になり、ゆっくりと俺に向き直る。


「わかりました、では、帰りは少し遅くなりますが夕方以降張り込みをすることにしましょう」


「これで何か進展があればいいけど」


「ふふ、なんだか探偵みたいでワクワクしますね……事件の臭いがします! なんちゃって」


 楽しそうに笑う彼女は虫眼鏡を目に当てて何かを探すような仕草でキョロキョロとしていた。


「似たようなもんかな、でも大抵探偵ってのは地味なもので、やってることは浮気調査とか人の捜索とか、しおんが考えてるような事件の調査なんてほとんど無いらしいよ」


 かじった程度の知識を披露すると、しおんは今度は真剣に悩んだ顔に変わる。


「私も探偵……雇えないでしょうか」


「何で?」


「浮気現場の調査……祐二ゆうじくんが浮気してないかを調べてもらうんです。まずは由美ゆみさんとの関係を──」


「俺ってそんなに信用ない?」


「ふふ、もちろん冗談ですよ?」


「知ってる」


 こういった冗談もいい加減慣れてきたが、そういう場合はきまって真剣な顔をする彼女だ。

 実は本気で言ってるんじゃないかと思う瞬間もあるので、気は抜けない。


「それで、今日から早速ですか?」


「うん、そうしようと思う。それまでは図書室で調べ物をするなり、他の方向での調査を進めたらと思ってる」


「賛成です。では、先ずは図書室へ行きましょうか」


 俺たちはいつものように図書室へと向かった。



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 結果を先に言うと、収穫は無かった。図書室での調査も、張り込みも。

 日が沈みかけた頃から暗くなるまでの時間、俺たちは体育館側の倉庫──つまり以前しおんが俺を覗き込んでた場所で隠れるように空き地の方を見張っていたのだが、部活の終了時刻ギリギリまで粘ってみたが怪しい人物は一向に姿を見せなかった。

 その翌日も同じように見張ってみたものの結果は同じで、特に有力な手がかりを得るには至らなかった。


「結局何も進展無かったなあ」


 休日を明日に控えたお昼頃、いつものようにしおんと昼食を楽しみながら、俺はポツリと呟く。


「そう簡単に見つかってしまっては楽しくないと思いますよ?」


 そう言いながら、食事を中断したしおんは言葉を続ける。


「それよりも祐二くん、明日のデートですけど、プランは考えてくれました?」


「うん、それはバッチリと、楽しみにしててね」


「はい! 楽しみです。あ、お茶です、どうぞ」


「ありがとう」


 俺はしおんからお茶を受けとると、それを飲み始める。


「それで、もうどこへ行くか聞いてもいいですか?」


「そうだね、あ、そうだった。しおんに聞かなきゃいけなかったんだ」


 俺はどうしても聞いておかないと決めることができない事があったのを思い出す。


「しおん、映画と遊園地、どっち行きたい?」


「映画と遊園地……ですか? そうですね……」


 暫く考え込むしおん。俺は彼女の回答を待っていた。


「あ、遊園地……遊園地に行きたいです!」


「遊園地ね、分かった。じゃあ決まりだ。集合場所と時間は覚えてる?」


「もちろん覚えてますよ。大丈夫ですっ」


「楽しみだなあ。今日はしっかり寝とかなきゃ」


「遅刻は駄目ですよ?」


「そんなことしないよ、しおんこそ遅刻……まあしおんに限ってそれは無いか」


「もちろんです。私が遅刻なんてありえません。信じていいですよ」


「それは俺もよく知ってるから大丈夫。心配なんてしてないよ」


 そんな事を話す内に昼休みは終わり、楽しい談笑の時間は部活まで持ち越しとなった。



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 今日の張り込みでも特に収穫は無かった。

 やっぱり勘違いだったのだろうか、それとも、もうその場所に用が無くなって現れないとか?

 考えてみても答えは出る筈がなく、頭は煮詰まるばかりだ。

 俺はベッドに潜り込みながら、気持ちを明日のデートに切り替えると、練ったプランを頭の中で反芻はんすうする。


「今日、寝れるかな……」


 夏祭りのような鼓動の高鳴りは無かったが、少し興奮気味で目は重くなく、まだ寝るには時間が掛かるようだった。


「好きな人が居るって、こんなにも毎日が楽しいものなんだな……知らなかった」


 思ってみれば、社会人になってそういった気配が微塵も感じられなかった職場に居たせいか、色恋沙汰に無頓着になってしまっていた気がする。

 それどころか、あの頃は人と接する事にどこか怯えていたようにも感じた。


「次は、ちゃんとした会社……探さなきゃな……」


 あの時代の事を考えるうちに次第にまぶたは重くなり、俺は眠りの海に深く深く沈んでいった。



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 ここはどこだろう。

 目を開けるとそこは知らない天井で、身体や頭はおろか、視線すら動かせない状態に困惑する。

 これは、またあの夢か?

 視界の隅には点滴袋が見える、そこから伸びたチューブは、恐らく腕に刺さっているのだろう。

 また、誰かの泣く声がする。

 でも俺は、その声を知らない。

 そうする内に、病室のドアが勢いよく開く音が聞こえた。

 足音が近くなり、ついにその足音の主が視界に入る。

 俺……?

 見間違う筈が無い、毎朝鏡でよく見る自分の顔が、その視線の先にあった。

 だがその顔は今にも泣き出しそうに歪んでいて、必死に何かを叫んでいる。

 妙に心が温かい。この気持ちは何だ?

 そうする内に視界は歪み、闇に溶けていった。



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 目を開けると、そこは見慣れた天井が視界に広がっていた。

 窓の外では朝を告げる鳥のさえずりが聞こえてくる。

 既に窓の外は青みがかった光が夜の暗闇を半分ほど染めていた。


「もう見ないと思ってたのに、またあの夢だ……」


 夢に現れた俺自身、ということはあの視界の主は誰なんだ? まさか……しおん?

 静かに身体を起こした俺は妙な胸騒ぎを感じる。だが、それが何に対してなのかはモヤが掛かったように浮かんでこなかった。


「忘れよう、もう終わったことなんだ……」


 そうだ、俺はしおんの未来を変えた。もう彼女を失う事なんてあるはずがないんだ。


「……準備しよう」


 俺はベッドから離れ、リビングへ向かった。



「あら、おはよう祐二、今日は早いのね」


「おはよう母さん、父さんは……休日だし寝てるか」


「朝ご飯ならもう用意してあるわよ」


 テーブルには既に朝食が並んでいた。

 席に着いた俺はそれを食べ始める。


「ねえ母さん、お願いがあるんだけど」


「お願い? 珍しいわね、あんたがお願いなんて、何?」


「今日デートなんだ、お金頂戴?」


「あらま、デート! やっぱりあんた彼女できたんじゃない!」


「やっぱりって?」


「あんた先週洋服ビシッとキメて出かけたじゃない、顔がすごい緩んでたから何か良いことあったのかなって思ってたのよ」


 顔に出さないつもりが、思いっきり出てたのか、恥ずかしい……


「気付いてたのかよ……」


「まあまあ、今度その子家に連れてきなさいよ、母さんその子の顔も見たいし、ああそうそうデート代ね……はいこれ、頑張ってきなさい!」


 母さんは一万円札を手渡してくれた。結構太っ腹な額だ。いいんだろうか。


「うん、ありがとう、連れてくるのは……まあそのうちね」


 そう言って俺は、今日の予定を頭の中で再確認していた。



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 待ち合わせの時間よりも少し早く駅に着いた俺だが、しおんの方はもっと早かったらしい、既に駅前で待っており、俺に気付くと手を振ってきた。


「祐二くん! おはようございます」


「おはよう、しおん。ごめん待った?」


「待ったと言えば待った事になりますけど、待つのも楽しかったですよ」


「そう? いつからそこに?」


「大体一時間前でしょうか」


「一時間も!? もっとゆっくりでもいいのに」


「すごく楽しみにしてたんです。これくらい平気ですよ」


 しおんって朝に強いんだろうか、それにしても一時間って……

 お互い時間前には到着したものの、彼女を待たせてしまった事への罪悪感を感じた。


「今日のデート代は、全部俺が持つよ」


「え? それは駄目です!」


 真剣な顔をして俺の提案を拒否するしおん。


「これは私たちのデートです。お互い楽しまなきゃ駄目なんです。一方に負担を掛けるのは良くないと思います」


「そ、そう? ごめん、じゃあ今のはナシで……」


「はいっ、今日は楽しみましょう、祐二くん!」


 そうして俺たちは、電車に乗り込み都心へと出かけた。



 都心へ到着した俺たちは、駅を出て立ち止まる。


「じゃあ早速なんだけど、お昼にしようか」


「そうですね、丁度そんな時間ですし、どこかお店を探しますか?」


「うん、いくつか候補を絞ってみたから、空いてるところに入ろうか」


「はいっ」


 そう言って俺が連れて行ったのは喫茶店、以前由美と映画を見に行った際寄ったお店だった。

 しかし、考えが甘かった──


「結構……混んでますね」


「満席みたいだね……」


 休日のお昼時なのだ、都心の店は軒並み混雑を極め、お店によっては並んでる人すら見受けられた。


「つ、次の場所行ってみようか」


「ふふ、お任せします」


 そして次のお洒落な装飾が施されているイタリア料理のお店に向かうも、結果は同じで、そこには順番待ちの大行列ができていた。


「こんなことになってるとは……」


「人気のお店なんですねえ」


 出鼻を挫かれた俺は、焦ってプランを再確認する。


「えっと、次は……」


「祐二くん」


 しおんが声を掛けてくる。


「祐二くんが一生懸命考えてくれて、私嬉しいです。でも、無理しないでくださいね?」


「うん……ありがとう」


「あ、祐二くんあの店に入りましょう!」


 しおんが何かを見つけたらしい、指さす先には、人がまばらなファーストフード店があった。


「ファーストフードか……本当にそこでいいの?」


「はい! 私一度でいいから行ってみたかったんです。親からはそういう店は禁止されてましたから……」


 確かに栄養バランスの偏りが酷くて、親御さんが禁止する理由も分かる気がするな。

 そう考えたが、目を輝かせてそのお店を見るしおんにそんなこと言える訳がないし、なにより彼女の意思を尊重すべきだと思った俺は、しおんに賛成する。


「わかった、じゃあ行こう」


「はいっ」


 店に入ると、俺たちは適当にハンバーガーセットを注文し、空いてる席に腰掛ける。


「これがハンバーガーですか、テレビで見たよりもなんだか……薄い? ですね……」


「テレビのコマーシャルで宣伝されてるのは見栄えをよくする為に工夫してたりするからね、実際のハンバーガーはこんなもんだよ」


「そうなんですか、でも美味しそう……では、いただきます……うぅん、美味しい!」


 そういって小さな口でハンバーガーに可愛らしくかじりついた彼女は、初めての味に感動しているようだった。


「そりゃよかった、じゃあ俺も」


 俺も自分の分を食べ始める。

 一通り食べ終わった後で、ドリンクを飲みながらこれからの事を話し合うことにした。


「正直プランを考えたって言ったけど、いきなりスタートで転んでしまって本当にごめん」


「いいえ、祐二くんがそれだけ一生懸命考えてくれたっていうのは見て分かりました。でもね、祐二くん」


「うん?」


「やっぱり、プランは白紙に戻して、自由気ままにお出かけしませんか?」


 突然のしおんの言葉に、固まる俺。


「それは、どうして?」


「祐二くんは、今楽しいですか?」


「それは……」


「私の為に考えてくれるのはすごく嬉しいんです、でも私だけ楽しむのは違う気がします。だから、一緒に考えて、悩んで、それで色々発見しませんか? きっとそうした方が祐二くんも楽しいはずですよ」


 そうか、俺はしおんに楽しんでもらおうと思うあまり、自分の楽しみを無視していたことになるのか。

 言われて初めて気付くことってあるんだな。


「しおんの言う通りだ。ごめん、なんか俺だけ空回りしてるみたいで」


「いえ、私は祐二くんと居られればそれだけで楽しいですから」


 それは俺だって同じだ、けど、今の俺はデートを優先するあまりそのことにすら気付いていなかった。


「わかった、これからはノープランで色々回ろう」


「楽しみですね!」


 それから俺たちは、ゲームセンターでひとしきり遊び、ショッピングモールでしおんの試着七変化を拝み、疲れたらベンチで休憩しながら談笑し、次の計画なんて何もない状態でそれ自体を楽しんでいた。


「そろそろ、遊園地に行こうか」


「そうですね、あの大きな観覧車の見える所ですか?」


「うん、そうだよ」


 しおんの指さす先には赤い大きな観覧車が見える。

 そこは都内にありながらとても大きな遊園地で、乗り物が充実してると評判だ。


「少し歩くけど平気?」


「平気です。でも、疲れたら祐二くんに寄りかかっていいですか?」


「はは、任せてよ、良ければおんぶもするよ?」


「それは……流石に恥ずかしいです」


 そう言って顔を赤らめるしおんの手を引き、俺たちは遊園地へ向かった。



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 遊園地も人が多かったが、施設そのものの広さもあるのだろう、数はまばらに見えた。

 俺たちは乗り物フリーの入場チケットを購入し、園内へ入る。

 しおんは早速何か見つけたのだろう、俺の手を引く力を強めた。


「祐二くん、あれ! コーヒーカップに乗りましょう!」


 しおんは目を輝かせて指さす先では、大きなコーヒーカップの乗り物がくるくると回りながら、中に乗ってる人らの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「わかった、行こう」


 そうして俺たちは早速コーヒーカップに乗り込むと、動き出したカップの中でしおんが楽しそうに笑った。


「あ、私知ってます。このハンドルを回すと早く回転するんですよね?」


「よく知ってるね、やってみる?」


「はい……えぇいっ」


 しおんは声を出しながらそのハンドルに力を込めた。


「お、少し早くなったかも」


「はぁ……私の力じゃ全然回りませんね、祐二くんやってみます?」


「よし、任せておけ……うりゃあ!」


 俺もしおんのように声に出しながら力を込めると、今度は勢いよくカップが回り出した。


「きゃあ」


 楽しそうな悲鳴をあげるしおん。


「まだまだあ!」


 更に力を込めて回すと、遠心力で頭をもってかれそうになる程の速度でカップが回り出した。


「きゃあああああ! あはははは!」


「はははは! どう!? 早いでしょ!」


 俺たちは二人で大笑いしながら、しばらくカップを回し続けた。



「うぅ……頭がクラクラします……足下がフラフラします……」


「うぷっ……気持ち悪い……」


 調子にのって回しすぎたせいですっかり乗り物酔いの俺たちは、ベンチで少し休憩することにした。


「まさあんなに回るとは思ってもみなかったよ」


「祐二くん回しすぎですよぉ」


「ごめんごめん、でもあおったのはしおんだよ」


「それもそうですね……ふふ、でも楽しかったです」


「そろそろ次の乗り物いってみる?」


「そうですね……じゃあ──」


 それから、しおんは次々と絶叫系の乗り物を指定してきた。

 その手の乗り物が苦手だった俺は本当の悲鳴をあげ、対するしおんは楽しそうな悲鳴をあげ、最後、ジェットコースターを乗り終えたあたりで俺のギブアップ宣言で絶叫ツアーは終了となった。


「もう、駄目……これ以上絶叫乗りたくない……」


「祐二くんってああいうの苦手なんですね」


「実は……そうなんだ……って、俺の悲鳴聞いてるから流石に分かったよね」


「結構可愛い声でしたよ」


 クスクスと笑うしおんは本当に楽しかったのだろう、俺も勇気を出した甲斐があったというものだ。


「もう夕暮れですね、そろそろ帰ります?」


「そうだなあ、あ、しおん、最後にあれ乗ろう」


 俺は目の前の、遊園地の象徴のようにそびえ立つそれを指さした。


「観覧車……ですか?」


「うん、それで最後、行こう?」


「はい、分かりました」


 まだふらつく足を必死に支えながら、俺はしおんの手を引き歩いた。



 観覧車に乗り込んだ俺たちは、お互い向かい合うように座るとドアが閉まる。

 徐々に高度は高くなり、地上が遠くなる。そして、地上からは見えなかった街の景色が広がりを見せ始めた。


「わあ……」


「おお……」


 俺たちは同時に感動の声を上げる。

 夕日に彩られた街の景色が眼前に広がり、更に観覧車は上昇を続けていた。


「祐二くん、今日はありがとうございます」


 目の前のしおんが口を開いた。


「うん? どうしたの急に」


「こんなにも楽しい思い出ができて、今、すごく幸せです」


「俺もだよ」


 しおんは、向かいの席から立ち上がると、俺の側に座り直す。


「狭いですか?」


「そんなことない」


 この窮屈さが逆に心地よかった俺は、彼女を否定することはしなかった。


「これからも、もっと色んな事を祐二くんと体験したい」


「色んなこと?」


「そうです、色んな事、見慣れてる筈の光景でも、祐二くんと一緒だとそれがとても新鮮で、新しい発見があって、私はもっとそれを祐二くんと一緒に感じたい」


「……」


「祐二くんが、不思議部に入ってくれて本当に良かったと思ってます。だってこんなにも素敵な光景を見せてくれて、私をドキドキさせてくれる。そんな人が、私の事を受け入れてくれて、側に居てくれる」


「それは、俺も同じだよ」


「これからも……これから先も、ずっと一緒に居てくれますか? これから先の光景も全て、一緒に共感してくれますか?」


「もちろんだよ」


「約束ですよ?」


「もちろん、約束だ」


「祐二くん……」


「……」


 そして俺はそっと、しおんの唇を奪う。今度は俺から。


「……」


「……」


 ガタンと車内が揺れ動き、俺たちはそっと離れる。

 もう下り始めたようだ、街の景色は見えなくなり、徐々に地上へと近づいていく。

 夕日を浴びて茜色に染まる車内、俺は目の前で涙を浮かべながら微笑む彼女を見つめながら、その日の約束を絶対守ると心に誓った。

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