その輝きは銀色に。
糸乃 空
第1章 ギンと少女
第1話 いつか。
カラン……。
暗く渇いた大地に蹴飛ばされた石ころの音が響く。
もう一度石を蹴飛ばそうと、前足を振り上げたところで、急に脱力してやめた。
昨日の朝から、何の栄養素も入ってこない胃袋が頼りなげな音を立てる。
頼れる父も優しかった母も、沢山じゃれあった兄弟たちも、猟師の手にかかり今は独りぼっち。
お腹が空き過ぎて、野ねずみの巣穴を掘る元気も、倒木の幼虫探しをする体力も気力もない。
空っぽの胸の中に、ふといつか祖父と交わした言葉が浮かんできた。
「いいか、ギン。狐はな、狼ほど強くなく、鹿のような立派な角もない。兎のように味わい深い肉もなく、犬猫のような従順さや愛嬌もない。そんなわしらにあるものは何かわかるか」
幼かったギンは小首を傾げながら無邪気に、わかんない、と答えたことを覚えている。温かくも淡い思い出。
前歯の抜けた口から、ほっほと楽し気な笑い声を漏らした祖父の笑顔が、懐かしく愛おしい。
「そうじゃろ、今はまだわからんじゃろな。わしらにあるものは、知恵だ。それも沢山ではない、ほんの僅かばかりの生き延びる知恵だ。人間はそれをずる賢いとも言うが、そんなあことはない。ま、今はわからなくていい、いつか、いつか思い出すときがくるじゃろ」
銀ぎつねのギンは、くいと空へ向かってくいっと顎をあげると背筋を伸ばし、けもの道を抜け、いつもは決して近寄らない人里へひたと歩き始めた。
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