100万個目の嘘
ちょっと悪戯好きな神様は
この日ひとつの魔法をかけました。
『世界中で100万個目の嘘が現実になる』
東の空から
一番早い4月1日の夜が始まりました。
-今日誕生日なんだ-
-彼女たち別れたらしいよ-
-あの大統領退任だって-
-宝くじが当たったんだ-
-君の好きなチーム勝ったね-
-宿題やった~-
-ごめん、家族で出かけるんだ-
-いま仕事先だよ-
-私は何も知りません。下請け会社の勝手な……-
-世界平和のために全力で取り組むつもりだ-
4月1日の陽が昇って
世界中で次々と嘘が重ねられていきました。
エイプリルフールにあやかった他愛も無い嘘もあれば
ただその場凌ぎの小汚い嘘もどんどん増えました。
悪戯な嘘には大抵笑顔が生まれました。
悪意の嘘には大抵怒りが生まれました。
普段嘘をつかない人も誰かを騙し
普段から嘘をつく人はこれ幸いと誰かを騙し
あっという間に数十万の嘘が囁かれました。
ちょっと悪戯好きな神様は
だんだんと近づく100万個目の嘘にドキドキしました。
やがて全世界がエイプリルフールに包まれた頃
ある女性の口から99万9999個目の嘘がつかれました。
-実は私はある大富豪の隠し子なの-
ちょっと悪戯好きな神様は思わず手を叩いて喜びました。
彼女は知る由もないことですが、ロマンチックな欲望はあと1歩で実現するところだったのです。
彼女の人生で二度と訪れないであろう大チャンスを逃したことが可笑しくてたまりません。
そうして小意地の悪い大笑いをしている神様の耳に
ついに100万個目の嘘が聴こえました。
それは神様が手を叩いて喜んでいる間に
貧困に喘ぐスラム街の端っこで
飢えによってたった今小さい弟を失ってしまった、小さな兄の呟きでした。
-ごめんなマイク……-
-本当は神様なんていないんだ-
ちょっと悪戯好きな神様は蒼褪めました。
自分がかけた魔法を取り消すことが出来ません。
慌てふためく体はあっという間に弾け飛んで、それは世界中の空に輝く流れ星となりました。
-マイク、流れ星だよ!-
-キミの心みたいだね。きっといつか世界中が優しく平和になるんだ……-
綺麗な流星群を見上げながら、少年は弟の後を追うように穏やかに息を引き取りました。
人々の心から神様がいなくなり
間もなく世界中から信仰が消えました。
拠りどころを失った人々は自制心も失くし、世の中はひどく乱れました。
しかし荒廃した世界で人は隣人に優しさを求め始め
そのために自分も優しくあろうと努めるようになりました。
あの日、少年がついた100万と1個目の嘘は
永い永い年月をかけて、いつしか本当になったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます