第277話 それから三年後01


 一義とかしまし娘が、座学庵で魔術講師を生業として、四年が経った。


 一義はエルフ。


 かしまし娘は魔術による存在。


 教養講師ゼルダはハーフエルフ。


 つまりこの五名に関しては、加齢と年齢が一致しない。


 一義とゼルダは長寿で難老。


 かしまし娘は、そもそも存在自体が、お膳立てだ。


 結果として、身体的に成長しているのは、生徒諸氏と相成る。


 大体妙齢の一歩手前。


 可憐と呼ばれるお年頃。


 恋と生理を覚える頃合いでもある。


 身長の伸びる生徒。


 体つきが大人に近づく生徒。


 恋に恋する生徒。


 多様だ。


「ふい」


 いつも通りの毎度のこと。


 一義は、かしまし娘と一緒に、温泉に入っていた。


「人の成長の早いこと」


 自身の、相対的な、時間の流れを無視しての発言だったが、


「ですね」


「だよ!」


「だねぇ」


 かしまし娘にも、異論は無かったらしい。


「女の子っぽくなってきたよね」


 事実その通りではある。


「ご主人様はどう御思いで?」


「特別何も」


「抱いたりとかは?」


「ロリコンじゃ無いし」


「音々は!?」


「設定年齢は僕と一緒でしょ」


 一義の年齢については此処では割愛するが。


「けど」


 とは花々。


「確かに一義を見る生徒たちの眼も、少し熱を持ってるね」


 そこら辺には聡い花々。


「ま、唯一の男だし」


 一義としては、苦笑せざるを得ない。


 座学庵。


 異国部。


 その臨時講師となって早四年。


 退学者もおらず。


 入学者もおらず。


 一義。


 姫々。


 音々。


 花々。


 ゼルダ。


 ステファニー。


 タバサ。


 アーシュラ。


 ヴァレンタイン。


 ウェンディ。


 ザンティピー。


 イヴォンヌ。


 これで固まった印象はある。


「あたしたちより先に手を出したら駄目だよ?」


 花々が釘を刺す。


「そこまで信用ならない?」


 とは一義の思念。


 無理もないが。


 自分で作っておきながら、一線を引くという歪な関係だ。


 そこに、かしまし娘が、引け目を感じるに十全だろう。


 どんな好意もけんもほろろ。


 一義がかしまし娘を頼りにしているのは、


「月子の死のフラッシュバック」


 への対応であって、それ以上ではない。


 姫々には家事もやらせているが。


 恋を知る頃合い。


 そんな異国部の生徒たちが、一番近い男性と言えば、


「一義しか居ない」


 でファイナルアンサー。


 なお眉目秀麗。


 これはエルフの宿命だが。


 一部の生徒は、


「格好良くて強くて明晰な先生」


 と評価する向きもある。


 知ったこっちゃない一義だったが。


 銀と黒と赤の視線が睨みやる。


「大丈夫」


 かしまし娘の脳天にチョップ。


「僕はロリコンじゃ無いから」


「それはそれでどうだろう?」


 音々にしてみれば、不本意な理屈ではあろう。


「音々はホラ……合法ロリだし」


「じゃあ抱いて」


 どこかしらハートマーク付き。


「その気になったらね」


 性事情に関しては、外道な一義ではあった。

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