第270話 一年後09


「そんなわけで座学庵祭の催し物を選んで欲しいのです」


 ホームルームの時間。


 ゼルダがそう切り出した。


「喫茶店」


「お化け屋敷」


「団子屋」


「…………」


「あう」


「……的屋」


「武闘祭」


 イヴォンヌは花々に影響されたらしい。


「考えることが同一」


 はたして喜ばしいことか?


 少し疑問に思う。


 色々と案が出た後、


「ではメイド喫茶と言うことで」


 そう決まった。


「喫茶店?」


「ですね」


「お茶を淹れるんでしょう?」


「そうなります」


「和菓子は手作りですか?」


「慣れるまでです」


「…………」


「大丈夫ですよ」


「あう」


「教えて差し上げますから」


 一人一人の不安に応対する。


「姫々らしいね」


 快笑する一義だった。


「服装はどうするんだぜ?」


「縫えばいいでしょう」


 さもあっさりと。


 特別な事では無い。


 姫々にとっては。


 けれども、


「不安だ」


 が生徒の総意だ。


「ちゃんと指導してあげますよ」


 どこまでも穏やかに……姫々は言った。


 元より家事全般は姫々の仕事だ。


 裁縫にも明るい。


 であれば、


「放っておいても大丈夫そう」


 そんな一義。


「音々たちも?」


「あたしらもかい?」


 それはまぁ疑問でもあろう。


「どっちも美少女だし」


 使わない手はない。


 そんなところ。


 とりあえずはメジャーを当てて全員の寸法をとる。


 布を用意するのは後日となった。


 和の国にも染め物の文化は在る。


 布と服の文化も在るが、


「少し雑」


 と評される。


 西方の文化に比べて、ある種の手法が確立していない。


「まぁそれは」


 と一義。


 これから覚えればいいだけだ。


「南無」


「何を他人事の様に」


 とツッコむ姫々。


「え? 僕も参加?」


「当然です」


 何が当然なのやら。


 義暗に襲われる。


「男なんだけど」


「ご主人様の御尊顔は綺麗ですので」


「そんな問題かなぁ?」


「です」


 多少なりとも姫々は興奮しているらしい。


「なんだかなぁ」


 天井に向かってそう呟いた。


 生来の仕事上、


「女装は初めてじゃない」


 といえるが、


「何故に座学庵祭で」


 それもまた疑問だ。


 愛らしい顔をしているのは否定できないにしても。

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