第226話 いけない魔術の使い方04
「と論じてきましたけどぶっちゃけてしまえば魔術なんてものは……」
一義は魔術の教科書を片手に教卓に立っていた。
銃力の講義が受けられる。
それは波紋となって学院に広がった。
「勘弁してくれ」
とうんざりする一義ではあったが、
「まぁ給料の内」
と溜飲を押さえ込んだ。
中には講師までもが一義の講義に参加していた。
「得る物もないだろうに」
そう皮肉を思わずにはいられなかった。
「基本的な理論はここまでとして」
一義は別の教科書を手に取る。
「四大元素を世界の指標としてみましょう」
いわゆる所のエレメント。
一義は懐疑的だが世界の通念でもある。
何よりイメージしやすいため魔術には持ってこいだ。
何よりイメージを優先するのが魔術であるのだから。
「特に学院で推奨される攻性魔術……その根幹は火と言って良いでしょう」
火、水、風、土。
これを指して四大元素という。
その中で尤もイメージしやすいのが火である。
イメージそのものは他のエレメントも大差は無いが、水と風と土はイメージできたからと言って攻性魔術に転位するには更なるイメージを必要とする。
対して火は魔術で発生させることが出来るだけでも人体を害することが出来る。
水流や涼風や不動の大地と違い、炎は具現するだけで人に火傷を負わせるため、ライティング以降の魔術で火の属性を選択する魔術師の卵は多いのだ。
一義にしてみれば、
「アホらしい」
で済む話でもあるのだが。
もちろん営業スマイルも給料の内だ。
「で、あるため現象が鮮烈で有れば有るほど魔術は具体性を増していきます」
淡々と講義を続ける。
教科書を取っ替え引っ替え。
「後は適度に脳を壊して三分待てば魔術師の出来上がりですね」
言って肩をすくめる一義だった。
「先生」
と生徒の一人。
「何でしょう?」
一義が答える。
「先生は銃力の魔術師と聞きました。これは火の属性に関与しませんが」
「ですね」
「銃力についての講義をお願いします」
「断ります」
一義は明朗だった。
「何故です?」
食い下がる生徒。
「魔術の行使だけで存分に脳を破壊するのです。その上更に脳を絶壁で背中を押すような技術を教えるのは講師として有り得ません」
事実だ。
ナタリアには真摯な態度であったから黙って講義したが本来一義の魔術……パワーレールガンは狂気の闇が魔術行使より更に数段階深い。
それを、
「教えろ」
と生徒は言う。
「馬鹿か?」
が一義の率直な感想である。
「もしも魔術の最奥に手をかけたいのなら誰かの魔術を真似するのでは無く自分だけの魔術行使を模索すべきですよ」
「それが先生にとってのパワーレールガンですか?」
「ええ」
一義は営業スマイル。
「見せて貰えますか?」
「構いませんけど……」
一義は手に持っていたチョークを指で弾くとパワーレールガンを行使した。
パン。
ズドン。
チョークが壁にぶつかって粉々に砕け散った。
「ま、こんなところですね」
黙りこくる生徒を見渡して、
「何でも無い」
と言ってのける。
これをより強力にすれば矛盾の魔術師に届く。
そう生徒に思わせる魔術だった。
もっともレールガンという原理を理解していない生徒には無理筋だが。
既に、
「パワーレールガン」
と言う名前は一義の二つ名の銃力とセットで大陸に震撼をもたらしている。
が、その原理を知るのはハーレムだけだ。
先述したがパワーレールガンには脳認識のハイスピードスイッチが必要となる。
魔術以上に脳を派手に壊さなければ到達できない高み。
魔術を使うことに精一杯の生徒に教えていい技術では断じてない。
もう一つ。
仮に脳のハイスピードスイッチを可能とする魔術師が鉄の国に現れれば霧の国の現状に支障をきたすためでもある。
後者の理由はほとんど後付けだが。
「たまには和の国にも帰るべきかな?」
なんとなく懐かしむ一義。
悲しいことはあるが、
「故郷は遠くにありて想うもの」
そんな言葉もある。
脳の効率的な壊し方を心得ているのは和の国の魔術師の常道だ。
偏に半島国家の宿命とも言える。
海に遮られ人口の繁栄がままならない以上、個人個人の能力を特化するのが理にかなった戦法でもある。
そうして和の国は秩序を享受してきたのだから。
鉄の国は安寧だ。
兵士に血の気は多いが、市場の流動性も銀行の機能性も申し分ない。
国民は国境沿いでも無い限り安寧を得ているだろう。
で、あればこれ以上を望むのは贅沢というものだ。
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