第194話 いざ鉄の国17


 無論一義たちも黙ってはいない。


 一義はパワーレールガンで肉体そのものを粉砕。


 姫々はマスケット銃で死者の脳を破壊。


 音々は結界の維持。


 アイリーンは魔術で死者を滅却していた。


 誰一人として凡俗が居ない。


 熟練の兵士を潰走に導いた死者の軍勢を鎧袖一触に蹴散らすセクステット。


「悪夢か……」


 兵士たちの司令官が呟いた言葉も無理なかろう。


 なお死者たちは恐れを知らずもっとも近い距離の生者……即ち一義たちを襲うものだから被害は最小限にとどまった。


 さくさく死者を片付けていく混成一個旅団。


「で、リッチは?」


 尋ねたのは一義。


「ほらあそこ」


 と答えたのは花々。


 結界の外であるが故に花々の超感覚はリッチを捉えていた。


 月が昇っている。


 その月光から地面に影を落とし、リッチが浮いていた。


 魔術師の好むようなローブを着て、腐食した肉体を持つ異物。


 リッチもまた死者であった。


 とはいうものの隷属している死者とは違い、アイリーンとルイズ曰く物理攻撃ではどうにもならないらしいが。


 そう云う意味では、


「珍しいね」


 と一義が感想を述べる。


 何かと言えばリッチと花々の関係性だ。


 絶対的防御性と破滅的攻撃性を有する花々はハーレムの中でも安定した戦力を持つ。


 受け身の戦いには弱いが、こちらから仕掛ける限りにおいてはハイランカーだろう。


 が、生憎リッチは物理的干渉では滅ぼせない。


 つまり死者の軍勢はともあれリッチ本体は花々とすこぶる相性が悪いのだ。


 一義が珍しいと云ったのはこの点である。


「ま、いいんだけど」


 月夜に浮かぶリッチを見据えてとりあえずの推論を放棄する一義。


 花々とルイズは着々と死者の数を減らしていたが、ここでリッチが動いた。


 大気中の水分を氷結させて射出する。


 魔術だ。


 リッチも魔術を扱えるのである。


 花々は特に痛痒しない。


 ルイズは音々の結界に取り込まれた。


「…………?」


 腐食した瞳で一義たちを見下ろす空中のリッチ。


 誰一人として痛痒を覚えていないことに困惑しているのかもしれなかった。


 一義には心を読む技術が無いため正確ではないが。


 次に襲ったのは炎。


 それも尋常ではない熱量。


 が、これも効果無し。


 音々の斥力結界の前には沈黙せざるを得なかった。


「改めて凄いですね……」


 アイリーンがおずおずと言った。


「矛盾には負けるけどね」


 それも事実だ。


「さて」


 一義は周囲を見る。


 まだ残ってはいるが花々とルイズの甲斐あって死者の軍勢は激減している。


 後はリッチを滅ぼせばソレで終わりだ。


「やってしまってアイリーン」


「距離が……」


 それがアイリーンの答えだった。


「遠い?」


「絶望的なほど」


「何で?」


「聖句を詠って穢れに触れて浄化しないとリッチは死なないんです」


「それを早く言ってよ」


 ムスッとする一義だった。


 依然リッチは夜空に浮遊している。


「要するに叩き落とせば良いんでしょ?」


「出来ますか」


「僕の魔術を忘れたの?」


「あ……」


 そう言うことだった。


 連続的な斥力場の形成。


 ソによる対象の加速。


 次の瞬間、


「…………!?」


 宙に浮いていたリッチは地面に叩き落とされた。


 レールガンによって。


 さらに音々の重力加圧によって立ち上がることさえ出来ないように封じられる。


 後は簡単だった。


「神の負債を背負いし者よ。我は汝らをなお祝福する」


 聖句を詠いながらアイリーンはリッチに歩み寄る。


「全ては主の御心のままに。それ故に我が代弁する」


 重力に縛られたリッチに優しく触れる。


「汝死を拒むなかれ。その意義は人の信仰の道なれば」


 そして慈しみ。


「故に主は定義する。汝はこぼれ落ちた一滴の水だと」


 聖句は此処に終了する。


「リア……コード……」


 そして魔術。


「聖火」


 最後は簡素な言葉だった。


 アイリーンの触れた手から炎が生まれると、それはリッチを浄化し消去せしめた。


 ここにリッチ討伐は成ったのだった。

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