第191話 いざ鉄の国14


 食事を終えると日が暮れていた。


 夜の時間だ。


 さて、一義は花々と一緒に個室の風呂に入っていた。


 さすがに一流ホテルだけあって風呂も広い。


 個室だけでなく大浴場も存在するとのこと。


 面倒なので一義は個室の風呂を選んだが。


「だ・ん・な・さ・ま?」


「何でしょう?」


「二人きりだね」


「そりゃ二人部屋だし」


「さぁ今こそ!」


「却下」


「何も言ってないよ?」


「花々は知ってるでしょ」


「そ~だけど~……」


 ぐわんぐわんと一義を揺する。


「あたしがかしまし娘の中で一番おっぱい大きいよ?」


「そういう風に設定したしね」


「おっぱいは嫌いかな?」


「その質問が嫌いだよ」


「ふむ」


 花々は思案するように天井を見た。


「旦那様はもう少し融通を利かせては貰えないかな?」


「出来るならやってるよ」


 少なくとも一義の精神に特異性が無ければ、ハーレムの女の子たちは全員一義の子どもを孕んでいるはずである。


 別段一義は禁欲主義者では無いが、


「月子に悪いし……」


 そんな駄々にも似た業を背負っている。


 月子は一義を許している。


 それは知っている。


 一義を裁いているのは月子では無く自分自身。


 その罪の重さに耐えかねて生まれたのがかしまし娘である。


 自分で自分を裁く以上、贖罪には自身を必要とする。


 ハーレムの女の子たちはその触媒だ。


 一義に黄金の園を見せるという……ある種の救いの。


「結論として」


 一義は言う。


「かしまし娘は最も目が無いよ」


「むぅ」


 一義の胸の内をあまさず理解しているため花々の呻きも自然だった。


 納得しているわけでは無い。


 一義は純真だ。


 あるいは純情だ。


「ヘタレ」


 とよく言われるが、


「女の子を大切にしている」


 の裏返しでもある。


 別段無欲なわけでもないが、


「答えの出ていない僕が名も無い花を手折っていいはずがない」


 そんなヘタレ紳士であった。


「旦那様。ちょこっとで良いから相手して?」


「嫌」


「誰にも言わないよ~」


 ぐわんぐわん。


「やめれ」


 ぐわんぐわん。


 揺すられる一義であった。


「なら決闘だ!」


 ビシッと一義を指差す花々。


「何その不条理」


 一義に勝てる要素が見つからない。


 仮にパワーレールガンを使ってもオーガの肌には傷一つつかないだろう。


 あえて勝機を見出すならパワーレールガンで宇宙まで加速させることだが、生憎とこの世界は天動説である。


 空は青色で夜になると黒くなる。


 鳥が空を飛ぶ以上……天とて地と変わる事なし……。


 無酸素かつ極低温の空間という認識も無い。


 であるためどうしても重力に支配された考えしか持たないのだった。


「あたしが勝ったらセックスさせて貰うよ」


「負けたら?」


「あたしの体を差し出す」


 要するにどうしても一義と交合したいらしかった。


「言ってる意味分かってる?」


「無論」


 皮肉は花々の十八番だ。


 気兼ねしなくて良いのはメリット。


 愛らしいのもメリット。


「まぁ仕方ないか」


 嘆息。


 そも、


「そういう風」


 に設定したのは一義である。


 花々だけでは無い。


 姫々と音々も同様だ。


 皆々一義が大好き。


 当人がハーレムの先駆けを作ったのだから正に自業自得だ。


「とはいえ……」


 湯に肩まで浸かる。


 かしまし娘に西方ハーレム。


 ここまでハーレムが膨張するとは完全に一義の予想を反していた。


 当たり前だ。


 東夷に慕情を持つ女の子が大陸西方にコレだけ居ると云うことが既に常識の埒外である。


 加速を使って一直線に霧の国へ。


 その上で霧の国の住人の反応を見るにかしまし娘で自身を慰めるしか無いと覚悟していたが、現状は予想の斜め上を行った。


「どうしたものかねぇ」


 チャプンと湯面が跳ねる。


「旦那様は難しく考えすぎるよ」


「花々が欲望一直線なだけだと思うけど」


 どちらの主張にも理は在った。

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