第126話 剣劇武闘会12
一回戦を勝利して二回戦に駒を進めた一義。
しかして出番は二回戦の十六試合目だ。
場所は先の試合と同じ第五アリーナ。
試合までの時間はまだ後である。
「寝よう」
と一義はディアナのいるVIP席へと足を向けようとして、パンパンと拍手に歓迎されていることに気付く。
見れば軽装の鎧を身につけた美少女が廊下の壁にもたれかかって拍手で一義を祝福していた。
兜はつけていない。
銅色の髪に銅色の瞳を持った美少女だ。
腰にさしているのは木製の片手剣。
一目で剣劇武闘会の出場者だと把握できた。
「こんな女の子が」
一義がそう思ったのも無理はない。
一義と変わらぬ年でありながら十全に練られた身体能力は驚愕を呼んだ。
ビアンカやジャスミンの体でさえこれほどの能力は備えていないだろう。
すぐさまそれを察知して、
「あー……」
と一義は言葉を探す。
一義が言葉を見つけるより早く、
「素晴らしいね君は」
美少女戦士は拍手を止めて今度は言葉で一義を賛美した。
「恐縮です」
思ってもいないことを空々しくも言葉にする一義。
「さすがにシード枠で本戦に出たミスト陛下のお墨付きだ。依怙贔屓かとも思ったが十分な実力を持っているのは先の試合で証明されている」
ミスト陛下とは、つまりディアナのことである。
「あの剣技は何だい? 剣を以て剣を奪うなんて」
「巻き技って呼ばれる和の国の剣術だよ。剣で剣を絡め取って相手の手から奪う。まぁ一種の手品だね」
「東方の神秘かい?」
「なんととってもらっても」
一義は遠慮なく言った。
「それで君は誰だい? 知り合いなら忘れていて申し訳ないが」
「そうだね。そう言えば名乗っていなかった。これは僕の不徳だ。僕の名はルイズ。皇帝直属騎士で《疾速》の二つ名をもらっている」
「皇帝直属……っ」
その意味を一義は正確に把握した。
つまり王国ではなく帝国から来た戦士だ。
そして霧の国に最も近い帝国は霧の国と小競り合いを繰り返している鉄の国である。
即ち銅色の美少女ルイズは鉄の国のロイヤルナイトということだ。
「鉄の国の騎士が何故に霧の国のイベントに?」
「腕試しだよ。日々の努力も大切だけど実戦も必要だからね。ちょうどよく隣国で毎年剣劇武闘会が開かれているんだ。参加しないのは嘘ってものだろ? 特に一義みたいなイレギュラーにも巡り会えるから無視するわけにもいかない」
「僕を知っているの?」
「鉄の国で君を知らない者がいると思う? あれだけのことをやらかして……」
一義は沈黙した。
徹頭徹尾反論の余地が無い。
「それで? 皇帝直属騎士様が僕に何の用?」
「一義は皇帝陛下の宮廷魔術師への誘いを蹴ったらしいね。何故だい?」
「魅力を感じなかったから……だね」
「名誉なことだろう?」
「それはルイズでも皇帝陛下でもなく僕が決めることだ。付け加えるなら鉄の国に皇帝に税金を納めるくらいならディアナに税金を納めた方がまだしもマシだね」
「面白い人だね君は」
くつくつとルイズは笑う。
「お褒め頂き恐縮です」
一義は笑わなかった。
そして疑問に思っていることを聞く。
「そういえばシード権がどうこう言ってたね。どういうこと?」
「何も知らないのかい?」
「知らないということさえ知らない状況だね。僕としては剣劇武闘会の参加は不本意でね。ディアナに言われるがままってだけ」
「まさか王属騎士へのチャンスが与えられるこの剣劇武闘会において参加を望む戦士が六十四名しかいない……なんてことはありえないだろう?」
「つまり僕の知らないところで六十四名の選抜が行なわれた、と?」
「一義がソレを知らないということはそういうことなのだろうね」
むしろさっぱりとルイズは言った。
「できれば一義には決勝まで残ってほしいな。君と僕とは順番の関係上決勝戦でしか当たらないから」
「努力はするよ。確定とは言えないけどね」
「一義なら大丈夫さ」
「恐れ多い言葉、恐縮だよ。で、仮に鉄の国の皇帝直属騎士がこの剣劇武闘会で優勝したら霧の国の面目丸つぶれじゃないかな? それとも鉄の国から霧の国のお抱え騎士に転職する狙いかい?」
「そんなつもりはないけどね。結果的にそうなるってだけで僕としては知ったこっちゃないのも事実かな」
「つまり腕試しがしたいだけだと?」
「うん。まぁ」
遠慮なく首肯するルイズだった。
一義にはわかりかねる判断基準だ。
「ともあれ決勝まで勝ち残ってね。君となら楽しい試合が出来そうだ」
「どちらに対しても確実とは言えないけどね」
「うん。ある意味で君を負かすことのできた相手というのにも興味はあるけど」
「その時はその時でしょ」
「然り」
ルイズは銅色の瞳に皮肉を映してくつくつと笑う。
一義は笑わなかった。
「予選を勝ち抜いた六十四人……今は三十二人か……少なくとも練度はいやおうなく高まるばかりだ。その中で君がどう判断しどう勝ち抜くのか。それを楽しみの一つとしよう」
「予選って厳しいのかな?」
「本当に何も知らないんだね」
「……僕の参戦は不条理に因るものだから」
「まぁそれなりの腕自慢が集まるから本戦ほどじゃないにしてもレベルは高いよ」
「へぇ」
「僕にしてみれば矛盾の魔術師のせいで鉄血砦という便利な中間地点を失ったから予選に参加するにあたって不便だと言えばこの上なく不便だったけどね」
「…………」
「おかげで鉄の国が規定していた国境線はガタガタ。鉄の国と霧の国の国境の定義に関する小競り合いに参加するはめになったんだよ」
「そりゃ不幸なこって」
一義の皮肉に、
「まったくまったく」
コクコクと頷くルイズだった。
矛盾の魔術師が鉄血砦を攻略してからまださほどの時は経っていない。
鉄の国にしてみればショッキングな事実だったろう。
鉄壁を誇る砦をたった一人に攻略されたのだから。
即ち魔術師一人が戦略的戦力を持つ事の証明だ。
だからこそ霧の国はシダラに王立魔法学院を作ったのだ。
百万の兵に勝るたった一人。
それを創るのが学院であり矛盾の魔術師を擁護することでもある。
そしてルイズもそれを肯定するのだった。
「何はともあれ……」
閑話休題。
「僕は一義に興味を持ったよ」
銅色の瞳に映るのは好奇心。
一義の白色の瞳には困惑が織り交ぜられている。
エルフ特有の長い耳がピクピクと警戒に震える。
「根本的なことを聞くけど……ルイズは東夷に対して思うことはないのかい?」
「触れれば魂が穢れるって? 仮に事実だとしても魂が穢れて何なんだ……って話じゃないかな? それに一義は可愛らしく格好いい。見惚れるに値する」
一義は無言でガシガシと後頭部を掻いた。
ルイズが東夷を嫌悪しないということに対して困惑したからだ。
「これは新しいハーレム候補かな?」
そう思わざるをえない。
一義の存在を認めることがハーレムの第一義だからだ。
しかして会ったばかりの人間がハーレムに入るのだと言えるほど一義は自惚れてはいなかった。
「とまれ、君という楽しみを僕は知った。決勝で会おう」
そう言って銅色の美少女ルイズは一義に別れを告げた。
なんとなく気にかかり一義はルイズの背中を見えなくなるまで目で追ってしまった。
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