第67話 いけない魔術の使い方03

 ドラゴン狩りの関係上ディアナは学院長室に居座っていた。


 雷帝アイオンの護衛があるとはいえ、相手は国王。


 故に兵士たちが王立魔法学院で横行しているのである。


 故に学院長室に入るには複雑な過程が必要であったが、雷帝アイオンの鶴の一声によって一義と姫々と音々と花々とハーモニーはあっさりと学院長室に招かれるのだった。


 学院長室に入室した一義を見るや、ディアナがパァッと表情も華やかに笑った。


「一義様……!」


 そう言って一義に飛びつくディアナ。


「ディアナ……あんまり迂闊なことはしないで……」


 そう抗議する一義に、


「ドラゴン狩りの件……聞きましたわ。よくやってくれました」


 一義に抱きついたままスルーするディアナ。


「報告にもあったでしょう? しとめたのは姫々と花々ですよ」


「はい。その報告も聞いていますわ。ありがとうございます。姫々……。花々……」


「恐縮です」


「まぁその御言の葉……有難く受け取っておくよ」


 それぞれにかしこまる姫々と花々。


「音々は!? 音々だって漸近境界でドラゴンブレスを受け止めたよ!」


「はいな。協力感謝いたしますわ音々……」


「えへへ! それほどでも!」


 おだてられて木に登る音々であった。


「それで? ドラゴンの遺体はどうするんだい? 殺竜の魔術……ドラゴンバスターさえ防ぐ鉄壁の鱗だ。加工は難しいと思うけど……」


「大丈夫ですわ。形相変換できる魔術師が王都にはいますから」


「形相変換?」


「質料と形相……これは知っていますわね?」


「そりゃまぁ」


「このうち質料をそのままに形相だけを書き換えることのできる魔術師がいるんです。故にドラゴンの鱗の強度そのままに色んな形に変えれるってことですね」


「そんな魔術が……」


「はい。存在します。故にドラゴンスケイルは強固な盾や鎧に……ドラゴンエッジは強力な武器に……それぞれ変換できるんです。大竜ともなればそれはもう強力な装備にできます。いまから楽しみですわ」


 屈託なく笑うディアナ。


「なんなら一義様のために何か作って差し上げましょうか? 剣でも鎧でもなんでもござれ……結構毛だらけ猫灰だらけ、ですわよ?」


「あー、まー、気が向いたら」


 一義はやんわりと断り、


「それで……」


 本題を切り出す。


「この子なんだけど」


 と一義はハーモニーを抱き上げてディアナに向けて強調する。


「その子がどうなされたんですの?」


「この子、鳥の国の出なんですけど……」


「亡命希望ですの? 一義様のハーレムというのなら受け入れて差し上げますわ」


「それが微妙なスタンスで」


「?」


 クネリと首を傾げるディアナ。


「この子の名前はハーモニー。炎剣のハーモニーと言えばわかりますか?」


「ハーモニー!?」


「炎剣の!?」


 ディアナとアイオンが同時に驚く。


「鳥の国の炎剣騎士団の長が何故ここに……!」


「…………」


 相も変わらず会話不精なハーモニーは黙って一義に抱きあげられたままである。


 一義はドラゴン狩りでのことをダイジェストでお送りした。


 即ちハーモニーが一義に一目惚れしたこと。


 レッドドラゴンとの戦いで炎剣騎士団が壊滅したこと。


 一義になついたハーモニーをこうやって連れて帰ってしまったこと。


「炎剣のハーモニーが亡命を希望しているんですの……?」


「はぁ。まぁ」


 ぼんやりと一義。


「それはまぁ確かに炎剣のハーモニーなら王宮騎士にも迎えてあげられますが……」


「それだと鳥の国と摩擦を生むでしょう?」


「そうですが……」


 困ったようにディアナ。


 そこに一義が針のように言葉を刺す。


「ですからアイリーンの時と同じくハーモニーを霧の国の客分と迎えて、王立魔法学院の特別顧問にしていただきたいのですが……」


「ああ、なるほど。それで私のところに連れてきたんですね」


「うん……。ディアナが王都に帰る前に話をつけておきたくて」


「そういうことでしたらわかりました。学院長、テレパシストをお呼びなさい」


「了解しました女王陛下」


 そう言って学院長はベルを鳴らして秘書を呼び、命令する。


 部屋の奥に待機していたテレパシストが現れる。


 テレパシスト……遠隔思念会話の魔術を持つ魔術師の総称だ。


 情報をより早く正確に伝えるための存在であり、諜報活動やそのカウンターに特化した魔術師である。


「王都ミスト……宰相に繋げなさいな」


 そんな女王ディアナの命令に、


「承りました。女王陛下」


 うやうやしく一礼すると、


「テレパシー」


 と呪文を唱えて、テレパシストは思念を馬で十日離れた王都の、その宰相と脳を共有した。


「繋がりました」


 とあっさりと言うテレパシスト。


「宰相に言いなさい。炎剣のハーモニーを霧の国の客分として認め、反魂のアイリーンと同じく王立魔法学院の特別顧問とする……と。そしてこれは国王案件であるが故に何にも勝り完遂なさい……と」


「了解しました」


 一礼してテレパシストは虚空を見つめる。


 そして視線をディアナに戻すと、


「宰相は受諾いたしました。これより炎剣のハーモニー様は霧の国の客分で王立魔法学院の特別顧問と相成りました」


 そうディアナに告げるのだった。


「そういうわけですから。炎剣のハーモニー……あなたはこれから王立魔法学院の特別顧問ですわ」


「…………」


 黙り込むハーモニー。


 花々が代弁する。


「特別顧問とは何かと問うているよ。ハーモニーは」


「特に大した地位ではありませんわ。ただ王立魔法学院の客分だと思ってもらえれば結構です。魔術を研鑽するなり魔術師を育てるなり一義と仲良くなるなり好きにして構いませんわ」


「…………」


 コクコクと頷くとハーモニーは一義の抱き上げから解放され、一義の制服の袖を握った。


「よかったねハーモニー……これで君も霧の国の住人だ。これからは僕の傍にいていいんだよ?」


「…………」


 コクコクと頷くハーモニー。


「やぁん! 可愛い!」


 と雷帝アイオンがハーモニーに抱きつく。


「可愛ければ誰でもいいんだ……」


 なんて一義の言葉に、


「可愛いは正義だからね!」


 とアイオンは断言した。


「しかして一義様……」


「なんでせう?」


「本気で王属騎士になりませんこと? 一義様のハーレムはそれだけ強力な軍事的発言権を持ちますわよ」


「そんなこと僕に言われても。僕に惚れた女の子たちに言ってくださいよ……」


 後頭部をガシガシと掻きながら一義。


「まぁそれはそうなんですけど……。反魂……殺竜……炎剣……雷帝……絶防……それに銃火器の姫々にオーガの花々……もう立派な軍隊ですよ」


「僕自身は無能ですけどね」


「いいえ。一義様のポテンシャルは十分ですわ。それだけの価値がありますの」


「そうかなぁ?」


「そうですわ」


 断言するディアナ。


「まぁ今すぐに……とは言いませんが……王属騎士の件……考えておいてください」


「まぁディアナがそう言うのなら」


 ガシガシと後頭部を掻く一義なのだった。

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