第59話 ドラゴンバスターズ06

「なんだい……こりゃあ……?」


 此度のドラゴン退治の拠点とすべき村に着いた一義およびハーレムたちは、その村の様子にポカンとした。


 風体はうらさびれた村と云った様子なのに、見渡す限り人、人、人だった。


 甲冑を着て剣や槍を装備した兵士たちが村を闊歩していた。


 その数は五十を超えるだろう。


 村にテントを張って数多くの兵士たちが村に居座っているのだった。


 馬車から降りて活気づく兵士たちを見渡す一義たち。


「何が起きてるのさ?」


 そんな一義の疑問に、


「女王陛下が兵を差し向けた……とか……?」


 と妥当な予想をするビアンカ。


「でもそれならば先にわたくしたちに言うはずでは……?」


 これは姫々。


「だね。でも……ということは……」


 これは音々。


「別の兵隊……ということかな……?」


 これは花々。


 そしてそんな一義たちを見つけた兵士が歩み寄ってくる。


「君たち……旅の者か?」


 腰に帯剣している兵士がそう聞く。


「いえ、僕たちはドラ……」


 ゴンを狩るために来ました……と言おうとした一義にハイキックをかまして、


「おほほ。そうなんですの。そちらの兵士さんたちは何故こんな辺鄙な村に?」


 ビアンカがそう取り繕った。


「シクラ山脈に凶悪なドラゴンが現れたからその退治をね。これを見たまえ……」


 と言って甲冑の肩を見せつける兵士。


 甲冑の肩には鳳凰にも似た鳥の紋様が刻まれていた。


 それは即ち鳥の国の兵士であることを意味している。


「鳥の国の兵士さんですのね。でもここは霧の国の領土ですわよ?」


「それを言われると辛いけどね。この村がドラゴンを狩るための拠点として一番向いている村なんだ。それにシクラ山脈の村はボーダーフリーなところがある。だから霧の国の軍隊が来る前に私たちがドラゴンを退治しようと……そういうわけさ」


「なるほど。よくわかりましたわ。ドラゴン退治……頑張ってくださいな……」


 オホホホホと笑ってビアンカは青い髪を梳き、兵士を激励した。


 それから一義たちは村の宿屋に顔を出した。


 兵士たちは村の範囲外にテントを張ってそこを拠点にしているようで、宿屋にはそんなに客はいなかった。


「ど・う・い・う・こ・と・で・す・の?」


 ビアンカは「全て事情は通じている」と女王ディアナの口利きによって確保された宿のマスターに事情を聞いた。


「どうもこうも……」


 宿屋のマスターが言うには鳥の国の軍隊はいきなり現れ駐在して、剣を抜いて「文句はあるまいな?」と問うたらしい。


「その脅しに屈しましたの!?」


 激昂するビアンカを後ろから羽交い絞めにして、


「まあまあ」


 となだめすかせる一義。


「此度のドラゴンはわたくしたち霧の国の財産ですのよ! その権利をむざむざ鳥の国に明け渡すとは!」


 怒り冷めやらずといったビアンカに、


「ビアンカ」


「……っ!」


 一義は冷たい刃のような言葉で黙らせた。


「この村の人だって生きていかなきゃならないだろう? わざわざ軍隊を相手取って死んで国にご奉公なんて強要できるわけもないでしょ……」


「しかし……!」


「ビ・ア・ン・カ?」


「……はい。わかりましたわ。申し訳ありませんでしたの……マスター……」


「いえ、こちらこそふがいないばかりで……あ、お部屋を用意してあります。どうぞお休みください」


 そしてマスターの先導のもと……一義たちは宿屋の大部屋を借りて、そこに荷物を安置するのだった。


 それから一義はビアンカに問う。


「それよりビアンカ……さっき外でのことだけど、どうして君は僕にハイキックをかましたのさ」


「わたくしたちがドラゴン狩りにきた霧の国の使者だとばれてごらんなさい。戦争がおきますわよ?」


「どちらにしろ獲物の奪い合いになるんでしょ? それなら戦争くらい起きてもいいんじゃないの?」


「一義は鳥の国の軍隊相手にやらかすつもりですの!?」


「駄目?」


「駄目に決まっていますわ! とにかく穏便に。ドラゴンの居場所を突き止めて鳥の国の軍隊を出しぬく方法を考えなければいけませんの」


「面倒くさいなぁ」


 一義はガシガシと後頭部を掻く。


「とまれ、鳥の国の軍隊がこんなに早く動くなんて予想外ですわ。できれば彼らにばれないように動くことを勧めますの」


「邪魔する奴らは皆殺し……じゃいけないの?」


「駄目に決まっているでしょう! とにかく情報収集が先決ですわね」


「でも兵士たちを見る限り凡庸だったよ? ドラゴンスケイルが強固というのなら彼らの剣はドラゴンに届かないんじゃない?」


「だからこそですわ。ドラゴンに通ずる戦力を有している兵士がいると思った方がいいですわ」


「そんなものかな?」


「そんなものですわね。とにかくわたくしたちは旅の途中でこの村に立ち寄っただけという設定で兵士たちに接触してみましょう。何かわかるかもしれませんわ」


 そういうわけで一義たちは無害な旅人を装って歩く兵士たちに事情を聞いてまわった。


「あ、俺たち? ドラゴンを狩るためにここにいるんだよ」


「炎剣騎士団って言って君たちに伝わるかな?」


「炎剣のハーモニー様が俺たち炎剣騎士団の団長なんだ」


「ハーモニー様の焦熱斬撃の前にはドラゴンだって無力さ」


「ハーモニー様の外見? 桃色の美少女だぜ。美幼女と言った方が正しいかな?」


 聞きこみの結果、そんな意見が見て取れた。


 一義と姫々と音々と花々とビアンカが収集した情報は即ちそんな意見だった。


「つまり桃色の髪に桃色の瞳をした幼女が鳥の国の切り札……炎剣……ってわけかな?」


「そして炎剣のハーモニーは焦熱斬撃……炎の斬撃を飛ばすことが出来る……と……」


「ビアンカの殺竜の魔術に火の属性を付与したようなものかな!」


「おそらくはそうだろうね」


「炎はドラゴンには効かないと知らないんでしょうか……あのアーパーどもは……」


 そうこう宿の大部屋で一義たちが議論をしていると、窓の外から見える空は茜色になっていた。


 そして宿のマスターが「夕食の準備が整いました」と告げてくる。


 一義たちは食堂へと向かい、そこで積み上げられたパンの山を見た。


「…………」


 沈黙する一義たちを「ささ、ドラゴンバス……じゃない……ビアンカ様たちはこちらでございます」とマスターがパンの山とは別の席に座らせる。


 メニューは焼きたてのパンに干し肉に山菜……そして塩のスープだった。


 一義たちはそれらを食べながらチラリとパンが山積みとなっているテーブルを見る。


 そこには一人の幼女が座っていた。


 幼女は桃色の髪に桃色の瞳をもった大層可愛らしい外見であった。


 そんな桃色の幼女がモキュモキュと食欲魔神の如く積み上げられたパンの山を切り崩して……否……食い崩していく。


 いったいその小さな体のどこに山積みのパンを詰めれるだけのスペースがあるのか疑わしいばかりであったが、何はともあれ桃色の幼女の手と口が休まることは無かった。


「もしかしてあの子がハーモニー……?」


 小声で一義が問うと、


「そうではないかと……」


「他に桃色の幼女なんているわけないし」


「多分、だろうね」


 かしまし娘がそう答えた。

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