4-12「流石お嬢様の幼馴染ですね」
一人用のゲストルームとしては余りにも広すぎる部屋で、俺は高級感漂う揺り椅子に腰掛けながら窓越しの景色を眺めていた。
ポツポツと地面を叩く雨音だけが響き渡る。
もうすぐで日付が変わる頃か……。
キャンプ初日。
計画していたイベントについては全て滞りなく実行した。
問題があったとすれば、バーベキューの際、堂庭が大量の串焼きを網に乗せずに炭の中にぶち込んだくらいである。
俺達一同は戦慄したが、堂庭本人は決してノリでは無く素でとった行動だったということでこれまた驚きである。
その後も平沼が買ってきた材料がレタスではなくキャベツだったり、メアリーさんが買ってきた堂庭のブラのサイズが一つ大きいBカップで堂庭が「貧乳を馬鹿にしている」と言い出し都筑が「おっぱいが無いのも個性だから」とフォローを入れたつもりが逆効果でまさかの大炎上になる等、ハプニングは多かったが割と楽しかったと感じている。
一方でお天道様は俺達と違ってご機嫌斜めのご様子だ。
バーベキューの後片付けを始めた頃、ポツリと雨が降り出し、それから収まる気配は無い。明日は朝からハイキングをする予定らしいので行けるかどうか不安である。
そんな調子で堂庭家の別荘兼ロリバ……メイドの屋敷へ連れられた俺達だったが、到着早々開いた口が塞がらない事態となる。
8LLDKK露天風呂付き。
三階建てエレベーター付き。
トイレはもちろんウォシュレット付き。
ある程度予測していた俺でさえ驚いた。
もはや別荘のレベルを越えているのだ。これを気紛れで購入してしまう堂庭家は恐ろしい。常軌を逸している。
「はぁ……」
溜め息が零れた。
朝から動き回っていたお陰で全身が石臼のように重い。
もう寝るか……。
腰を上げ、電灯のスイッチに手をかける。
すると部屋が一瞬
直後。
ドッゴォォォォ……。
「雷!?」
もう一度窓の側に張り付く。
小さかった雨音は激しくなり、ビュービューとガラスが鳴り始めた。
山奥だから天気が急変する事もある。
箱根に向かう道中でメアリーさんが言っていたがどうやら本当のようだ。
「大丈夫かな……」
堂庭は雷が大嫌いだった。
昔、幼稚園児の頃、一緒に遊んでたら夕立になって雷の音に怖がり泣きながら俺の背中に引っ付いてたっけ。
そういう点ではアイツも人のことを言えないよな。
昼間は俺を馬鹿にしていたがお互い様である。
とはいえ流石に高校生だし泣いて怯えるような事はないだろうけど、気になったので堂庭の居る部屋へ行ってみることにする。
パタパタとスリッパの音を立てながら長い廊下を進む。
突き当たりを曲がったところで、背の小さなロリメイド……メアリーさんとぶつかりそうになった。
「あ、すみません」
「ふふ、こんな夜中にどうしたんですか?」
優しく微笑みながら首を傾けるメアリーさんはピンク色のパジャマ姿。見た目は完全に子供である。
「メアリーさんこそこんな時間にどこ行くんですか?」
「私は見回りですよ。怪しい人がいたらこの手で……撃退しちゃいます!」
がおーっと両手を構えるメアリーさんだが、そのポーズに説得力は無かった。
撃退どころか寧ろ襲われそうな気がするんだけど。
「気をつけて下さいよ……。じゃ、おやすみなさい」
言いながら前へ歩き出す。すると……
「瑛美お嬢様は自室ではなくリビングにいらっしゃるかと」
「えっ……!?」
慌てて振り向く。メアリーさんは「図星?」と言わんばかりにニタニタと笑っていた。
「流石は瑛美お嬢様の幼馴染みですね。心配で様子を見に行こうとしたんでしょう?」
「ちがっ。俺は……」
「なら弱ったお嬢様を狙って貞操を奪いに行こうと?」
「それは絶対に無いです!」
深夜に何を言ってるんだこの人は……。
「ふぅ、宮ヶ谷君は私の婿候補にはなりそうに無いですね」
「……何ですかいきなり」
「いやぁ余所の恋路を邪魔するほど私は愚かではありませんからね。では、良い夜を~」
「はぁ……。おやすみなさい……」
ルンルンと廊下を踏み鳴らしながら立ち去るメアリーさん。
俺はそんな後ろ姿を呆然とした目で見つめていた。
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