第52話「学園に向かう」
「変態王子。貴方に正式に獣王都への出張を命じるのです」
「ほほう、いとし子よ。あなたのおそばにとのことだな」
出発準備でてんてこ舞いの勝さん一号に乗り移った私は変態王子を呼び出して言います。
そして……もう一人。我が奥の手を呼び出しております。
「マイルズ様。私はカクノシンのお目付け役という事ですね。カクノシンよ覚悟するがいい、私の指導は甘くないぞ……」
どこから現れたのか知的なメガネ男子(たまごサンド普及委員会2号)が伊達メガネをくいっと人差し指で持ち上げながら言う。頼もしい限りなのです・
「ふふふふふ、まーちゃん気付いてしまったのです。暴走だらけの獣人たちを制御するには食なのです! 食で私の地位向上を! あなた達の長期滞在許可はねじ込んでおきました。見ているがいい! 着せ替えで楽しんだ皆さま! 我が覇道を前に、後悔するといいのです! そして、我ら料理男子三人衆をみて私が男の子だった子を思い出すといいのです!!!」
ふふふ、覚悟するがいい獣人たちよ!
あなたたちの胃袋は我ら「たまごサンド普及委員会」が抑えさせていただきます。
そしてしっかり理解するといいのです! 私は凛々しい幼児であることを!!
「……マイルズ様は既に【食の聖女】と呼ばれていることをご存じないのだろうか……」
「先輩よ。そんなポンコツなところも、いとし子の愛いところではないか」
何やら失礼なこと言ってる気がしますが問題ないのです!
お父さんにもお母さんにも計画書をプレゼンして許可を得ております!
心が燃え上がるほどやる気に満ちております。
「食の聖女の銅像を建てるのが目標というわけですね。お任せを」
「うむ。いとし子の姿を永遠に残せるように材質にはこだわるぞ!」
……聞かなかったことにします。
そうきっと、男の子の格好の銅像になる事でしょう。
うん、きっと……。
☆ ☆ ☆
朝起きると軽く伸びをした後、身支度をしてパン屋にパンを買いに行く。
おはようございます。衛です。
異世界に来てから神官さんのご厚意で色々しているが、元の世界で得た知識で役に立つ知識があまりない。まず、基礎科学についてだが相当進んでいる。
さらにそこに魔法道具っていう反則技がある。
便利なものであれば原理を知り、俺も作れるのかと聞いて試してみたが……法則性のある回路を魔法力という力で組み上げていくことが必要で、少しでも回路の線引きを間違えると何も起動しない……。
そもそも俺はその魔法力の線すらかけない……。
でもそれが大多数の人間できちんと線が引けるまで大変な修行が必要らしい。
じゃあ、なんでこんなに魔法道具が普及しているのかというと、コピー可能なのだとか。
そのコピー技術自体はそんな難しいものではなく、装置さえあれば5年程度の修行でできるようになるとか……。
まぁ、つまるところ俺が即戦力として役に立つことはない。
ある程度の科学技術への造詣がある自負はあったが、役に立たない。
よくSFで見かけると思うが高度に発達した科学力は基礎を省力化、つまりロボットで自動化してしまうため大規模災害や全滅戦争に見舞われると残った人類は科学力を失い一気に原始時代に戻てしまう。
つまり日本の知識は日本の高度インフラありきの知識。
だが、こちらの世界の既存知識で何かできるはず。
そう信じて今日もいろいろ頑張ってみよう。
運命神のねーちゃんも才能が有ればスキルが生えると言ってたし。
「おはよーございます!」
「おう! マモル。今日も早いな。神殿分はそこにあるから持っていきな!」
小太りで身長低めのパン屋の主人が奥から顔だけ出してくる。
本当にこの世界の人間は気さくで良い人が多い。
「ありがとう!」
「最近はどうだい?前は剣やってたそうじゃないか?スキル生えそうかい?」
「うーん、難しいね。魔法は2種類出たんですけどね」
「そりゃすげーじゃねーか、普通の人間は2~3個だ、十分だ」
「まぁ、そうなんだけどね……。でも可能性があれば試してみたいじゃん! 運命神様だって『色々やってみろ』的なこと言ってたし!」
「うらやましいな……、神様に会えるなんて1世代に1人いればいいほうなんだぜ?」
「ははは。ま、頑張るさ」
このやり取りも楽しいな……と思っていたら主人は奥さんに怒られて戻っていった。
パンの籠を片手に神殿への帰路へ着く。
この世界に来てからおよそ4週経っている。
運命神の神殿で厄介になって4週という事でもある。
香澄の呪いも解けかけている。正常に戻るとあの女ないわ、と思う。
「戻りました!」
「おう、台所に届けたら朝の御勤め手伝ってくれ」
確か50歳半ばまで至っている髭の神官長ジュウザ・マーサが明るい笑顔で神殿内から手を振ってくる。
元ハンターらしく筋肉質で目の奥に鋭さを感じさせるおっちゃんだった。
「了解です!」
「あと、飯食ったら弓の練習してみよう」
「マジっすか!」
先週は剣だった。全く才能なし、と烙印が……。
その前の週は土魔法だった。これも全く才能なし……。
前の前の週は火魔法。これはすごいとは言わないが素質あり!
最初の週は魔法力操作についてだった。
これが中々の素質ありという事で神官長の奥さん、こちらも元ハンターのセリヌさんがいろいろ教えてくれた。
今現状の俺のステータス。
名前:マモル・タケナカ
レベル:2
スキル:魔法力操作基礎、火魔法Lv1
ロールプレイングゲームみたいだなと思った。
ちなみにレベルについてはこの魔法がある世界で、人間や知的生命体が生き残る手段、その存在の位階を上げる手段、として神より賜りし恩恵……なのだそうだ。
つまるところ、魔法力あふれる世界なんて創造してしまったら、野生動物に影響が大きく出てしまい。他の世界の様に人間などの知的生命体が発生しずらくなったので、神が介在した。といった理解だ。
レベルの本質は生物としての細胞レベルでの強靭化にあると思われる。
魔法力がその体に定着することで進化しているのではないだろうかと推測した。
レベルについては5程度であれば大差ないが10だと顕著に差が現れるらしい。
街の平均は10。これはちょっと強いモンスターに襲われると負けてしまうレベルらしい。
なので、モンスター討伐仕事を請け負う【ハンター】と呼ばれる職業ができたのだそうだ。
ハンターの設立理念は国に見捨てられた村々への援助だそうで、今でも村々を食費だけ頂いて回る。
ハンター巡回が定期的に行われている。
それも最近はルカスという英雄が作った案山子防衛システムのおかげでハンター巡回は形骸化し、ほぼ行商の旅になり果てているとか……。
俺も一度案山子を見せてもらったが、あれアンドロイド。
ロボット。SF!?って思ったよ。
これ作ってるルカスっていう英雄がまだ存命らしく、案山子は西からどんどん増えていっているらしい。
でもその英雄が死んだらどうなるんだろうな?
「ルカス様が死んでも案山子はルカス様の遺志を継いで動き続けるらしいよ」
朝の御勤めの帰りに何気なく神官長に聞いてみたらそんな回答だった。
なんでそんな事を知っているのか?と聞いたら自信満々に『ルカス様がそう断言していた』だそうな。
俺はこの国の王様に同情した。
だってそうだろ?
国の三分の一近くが王様の制御から完全に離れた地帯になっているんだぜ。
俺が王様だったら安らかに寝れねーよ。
さて、住居に戻り朝飯を頂く。
こちらは固いパンでシチューとサラダが一般的だ。
硬いパンについては無駄飯ぐらいがいうべきではないが異議ありだ。
でも、俺が自分でパンなんか焼けない。
日本で少しは料理やってくればよかったな……、と少し後悔した。
皆さんは固いパンでも十分らしい。日本のパンを知っている自分とは違う様だ。
……知っていると求めたくなるのはいかんとしがたいな。
朝食後、弓の指導をしてもらった。
結果、筋肉痛がひどい。そして難しい。当たらない。というかすぐ当たったら弓道とか成り立たんか……。
最後のほうで矢が飛ぶようになった。と、思ったらスキルに弓術Lv1が生えていた。
今度は魔法と混ぜてみようと思う。
ちょっとワクワクしてきたぜ!
☆ ☆ ☆
「で?」
(うむ、王都に向かう事になった)
就寝前恒例となった勝さん1号と状況確認会議です。
昨日は変態王子の獣王都出発報告でした。
その前はドラゴンで実践したという、私が今試作を繰り返している振動剣の魔法回路構築についてでした。
あれは惜しい感じです。
獣王様からお預かりしている宝剣にぶっつけで書き込まなくてよかったです。
賢者が作ったという対竜武装が保たなかったらしいので、そもそも回路にかかる魔法力の負荷が大きすぎるのか、振動が自壊を呼んでいるのか、マサルさんには引き続き実験してもらいましょう。
「商人のサナエルさんと一緒ですか?」
(いや、あちらは祖母殿と一緒に転移魔法で帰る。金持ちはうらやましいな)
「便乗しないのですか?」
(重量オーバーだった……)
「そういえば獣王都に来ていた時も走ってましたね……」
なので観光ついでにサナエルさんの部下と一緒に馬車旅になるそうです。……ちょっと面白そうですね。うらやましいです。
「味覚機能は間に合いそうですか?」
(ああ、出発が1週間後らしいからな間に合いそうだよ)
「ついでに転送装置作りませんか? そして私に各地の名産を……」
(すまん。魔石はすべて使ってしまった(笑))
いけずなのです! 勝さん1号。
私も名産品食べたいのです!
(お土産は買ってやるから駄々をこねるな)
本当ですね! ていうか勝さんお金持っているのですか?
(サナエルさんにちょっとしたもの作って売ったら大金ゲットした(笑)金持ちさんやで)
「お土産期待してまっす!」
(ああ、そういえばイーリアスが帰りに同行するらしいぞ)
「イーリ兄ですか! イケメン成分が店に増えますね!」
(俺もイケメンだぜ!)
「……」
(無言はやめて、お願い。理解してるから、平凡だって……)
そうなのです権三郎は無駄にイケメンなのに、マサルさんは普通なのです。
元の勝さんも普通なのでしょうがない事ではありますが。異世界でくらいイケメンが良かったのです……。
(本体よ、心の声のつもりが聞こえているぞ。ああ、傷付いたのだ)
「勝さん1号。……オジサンなのにめんどくさいです」
(本体よ【オジサンだから】めんどくさいのだ。間違えてはいけないよ)
「そうでした」
本当にめんどくさい……おじさんですね。
「そういえば王都で学園とやらに入ると聞いています。苦労し無いように祈っていますよ。若い子ばかりなのでしょう?その学校」
(う、それはギャップありそうでつらいな。そういえば本体も若い子の中だがどうやってしのいでいるのだ?)
「若い子の中でも飛びぬけて若くて、可愛いまーちゃんは甘えて過ごしているのです。幼児の特権なのです。そして女児だけなので皆私に甘々なのです」
女子校というのがいけてませんがそこは我慢なのです。
(自分で可愛いと言い切れる。本体はすごい精神力だな……)
ん? 予期せぬ方向から褒められました? けなされました?
「マサルさん。少しお話が必要なようですね」
……こうして今日も夜が更けてゆく。王都までの名物探索はしっかりして帰路お土産買ってきてもらいましょう!
王都までの旅路についても記憶をのぞかせてもらえることが確定して本日は就寝となります。
おやすみなさい。zzz
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