第19話「ポチとタマとウッサと異世界人と僕1」
人権宣言です!
あの苦しい抑圧(リード)の日々から1週間が過ぎました。
あの行動を遮られるリードから解放されたのです。
私は~~~今、生きています!
さぁ張り切って朝のお勤めに参りましょう。
あれ? 祖母が降りてきません。代わりにミリ姉が降りてきました。
……待ってくだされ。その右手の服は何ですか?
なんで笑顔なんでしょうか?
いえ、刑期は空けたはずです。人間としての権利を主張します!
「姉に対して弟が何か権利を持ち合わせているなんて……、いつから誤解していたの?」
ぐは!
なぜ直球?
今までさんざん遠まわしだったじゃないですか?
え、まさかそんなことするまでもないほどに常識なのですか?
「すみません……。着ます……」
「よろし、それでこそまーちゃん♪」
おかしいな目から汗が流れてくるぜ。
人権宣言って自国民向けだったよね。
国内にいても国民と認められていなければ人権はないのですね。
シクシク。……あ、はい。ウソ泣きをやめるので、抱えて歩くのやめていただけませんか?
そしてなぜ笑顔全開なのでしょうか。弟はぬいぐるみではないのですよ?
あ、飴ちゃんですか。ありがとうございます。ぬ、ロリコン同盟の気配を感じます。権三郎Goなのです。
悪(ロリ)・即・斬です。ミリ姉も満足したのでしょうか、降ろしてくれました。
しかし、さすがミリ姉。私を抱えて歩いても疲れたそぶりも見せません。
さすが騎士を目指すだけあって体力づくりをしているようですね。
できればアマゾネスの様な筋肉ゴリラにならないでほしいところです。
ミリ姉に手を引かれ時計塔に到着すると、何やら張り紙が出されています。
ふむふむ。
森には近づかない様にとの事ですね。
魔物でも出たのでしょうか……。
むっ、また悪(ロリ)の気配を感じます。ふむ、正面からですか。なかなか見上げた根性です。よろしい。お相手しましょう。
「坊ちゃん、献上品です」
正面から現れた帽子屋の主人は、なぜかミリ姉ではなく私に笑顔を向け手に持っていた箱を開きます。中にはたまごサンドが敷き詰められておりました。
「帽子屋殿、わかって居られる」
イメージ的には悪代官と越後屋です。黄金色のお菓子なのです。
おひとついただこうと手を伸ばすと、なぜだかギリギリ届かない所に愛しのたまごサンドが逃げてゆきます。
「驚いた顔も『ぐっ』ときますな、はぁはぁ」
きっ危険なにおいがします!
私が慄き一歩下がると、帽子屋の主人は笑顔でたまごサンドを一切れ差し出します。
俗にいう「あーん」というやつです。
ふふふ、いくら好物だからと、この私がホイホイと「あーん」を許すとお思いなのでしょうか?
こう見えても中身はエリートサラリーマン。
関連会社の役員さんたちとのお付き合いで高級店を幾つ知っていると?
舌は十分に肥えているのです、今更庶民の味などでこの私が。
「あーん、なのです。美味いのです! 帽子屋のご主人ぐっじょぶです!」
もう一切れ所望します!
……え、ミリ姉ダメですか。あ、はい。朝食が入らなくなる。……あ、朝食残念定食ではないですか。それなら入らなくても……。はい。食べ物を粗末にしてはいけませんよね。はい。ごめんなさい。
「ジズルさん、申し訳ございません。弟が失礼なことをしてしまったみたいで」
「いえいえ、坊ちゃんのおかげで食の幅が広がりました。感謝しております。1切れでも献上できたので私は満足です」
そういって帽子屋のご主人は箱をしまいます。……でも片手にはたまごサンドが一切れ持っています。
ジーッ(ください)
視線に気づいた帽子屋のご主人はたまごサンドを右に動かします。
私の視線はそちらに動きます。
麗しのたまごサンドは今度はゆっくり左に移動します。
もう目が離せません。
帽子屋のご主人、もう少し下げていただければジャンプ一発食いつけます。
ジーッ(ハリーハリー!)
たまごサンド姫は帽子屋のご主人のご厚意で私の目の前にきました。後で気づきましたが、帽子屋のご主人の目の前でもありました。
パクっ
帽子屋のご主人はおいしそうに咀嚼しています。
知ってた……。
知ってたよ!
バカヤロー――ぐは。
走り出そうとした私ですが、リードに阻まれました。
……人権さんはいつ帰ってくるのでしょうか。……貴方のお家はここです。今なら何も言わず許してあげますよ……。
「坊ちゃんは可愛いですな」
「はい、ば可愛い自慢の弟です」
ん?かわいいの前に何か言いましたか?……え?気のせい。ですよねー。
閻魔帳に書き込もうかと思っちゃいましたよー。
じゃ、帽子屋のご主人その調子で布教活動お願いします!
さらばなのです! ……ぐはっ。
「確かに、ば可愛いですね」
「ですよね」
もう、ミリ姉がどんどん我が家の女性陣として頭角を現してゆく。あの可憐だった姉上はいずこに!
……あ、もともといませんでしたね。……ん?殺気を感じます。
お家に帰り、薄味残念定食を頂きます。
む、クリームシチューの味が変わりました。
ほう余り物のソーセージですな。腕を上げましたなザン兄。ごちそうさまでした。
さて、本日は獣王様とのお茶会でしたな。
ん?ミリ姉リードを放していただけないでしょうか。この後ご公務なのです。
「大丈夫よ。その公務、本日私も同席いたします」
「ほほう、では早速着替えてまいります。このベストを外していただけないでしょうか?」
「不要よ」
「着替えないのですか?」
「大丈夫。貴方の着替えは私の部屋にあるから」
ニッとミリ姉の口角が少し上がる。魔王だ、大魔王がいる!
「大魔王様は今大陸中央よ。一度会ったことあるけど大変優しいおじい様よ。聞かれてなくても失礼はだめよ」
ごめんなさい。……だけど私を抱えてお持ち帰りするのは何なのでしょうか。
今とっても自然な行為でしたね?あれ?なんでお返事が無いのですか?あれ?あれ?
ザン兄!
あ、目をそらした。ならば、バン兄!
……親指上げないで。……一度経験済みなのですね。これは試練。兄弟に伝わる試練……そういうことなのですね……。
何故だか用意されていたウイッグでポニーテールを作られ。
ピンクのフリルが目立つドレスを着せられました。
アクセサリーは……とか、リボンは……とかでさんざん弄ばれました。
……もうこんな事ならさっさと家を出発しましょう。
すぐに出かければ毎日会う人たちにジロジロ見られるのだけは避けられるのではないか!
そう考えていた時期が私にもありました。
「「まーちゃんかわいいーーー」」
お披露目会(公開処刑)が待っていました。
兄たちは幸いなことに学校に行っていました。もしかしたら過去のトラウマがうずいたのかもしれません。私の前には自由人(母、祖母)が目をキラキラさせながら私の痴態を見ております。この世界写真が無くてよかった。
自由人ズの後ろには『これは中々』とか呟いている父がいます。
何が中々なのですか?
これで目覚めたらだれが責任をt………ミリ姉取らなくていいですよ。何故か後ろからピンク色のオーラが押し寄せてきたような気がします。
お二人に堪能され、ついには絵師をよぼう! とかいう乗りが続きますが、さすがそれは『獣王様をお待たせする』ことになるので、と納まりました。ただ祖母が『あのワンコロぐらい待たせてもいいのに……』とつぶやいておりました。豪農の妻オソルベシ。獣人って高位の存在じゃなかったのでしょうか?
……ん? ミリ姉? その右手のry
ええ、人権さんは絶賛行方不明です。
私はリードを持たれたまま馬車に乗り込みました。……これは犯罪者の護送なのでしょうか。そうこう考えておりましたが、馬車は何の問題もなく会場に向かいます。
到着して我々子供たちも大人たちにご挨拶です。
まぁ予測通り祖父が暴走しました。
皆さん私は女の子に生れたほうがよかったのでしょうか?
最近男性差別をヒシヒシ感じます。でも残念、私の中身はおじさんなのです。そろそろ、おでんに熱燗で1杯やる季節なのです。日本橋にいい店があるのです。20時ぐらいまでにいかないといいところにありつけないのが玉に瑕のいい店が。ふむ、次のプロジェクトはO(オー)ですね。日本酒の酒蔵があるらしいのでそこの職人さんとコラボして……うふふ、熱燗の良さを広めてやろう!
……もうね、こうやって現実逃避しないとやっていられないのですよ。
孫かわいい病が発症した祖父でしたが、祖母の魔法一閃で正常な状態に戻りました。
護衛の方や獣王様が怯えていたのはきっと気のせいでしょう。獣王様といえば『神狼』と呼ばれたほどの猛者のはずです。こんなどちらかというと祖母から『心労』を受けるような方ではないはずです。
……ダジャレきた! 中はおじさんですので。えへへ。
さてさて、騒がしくなった大人たちの会場を出て子供会場に向かいます。
ここでようやく気付きました。本日、警備が物々しい。
ですが、迂闊にも気づきませんでした。本日も神獣の御子様がいらっしゃるのです。それ相応の実力を持った護衛が来ることを。
まったくもって不意打ちでした。その護衛が地球人であるなど誰が想像できたでしょうか……。
その男は入り口に立っていました。
筋骨隆々、オールバックでサングラスかけたら『アイルビーバッグ』とか言い出しそうな男が立っていました。
そして私たちを見て笑顔になります。
「おや、ルカスの孫って男の子と女の子じゃなかったか?」
「すみません。私は男です」
よよよと泣き崩れてみます。すると男は爆笑です。
「ミリ、あんまり。弟で遊んだらダメだぞ」
そういうなら笑うのやめてください。
「ほら、まーちゃん。ご挨拶して」
「初めまして、マイルズ・アルノ―3歳です」
男はほほうと目を細めます。
「よく挨拶できたなえらいぞ、俺はギース。異世界人だ」
私は目をむいてミリ姉を見ます。「大丈夫よ」となでられます。
「ああ、気にするな。慣れてる」
「失礼はだめよ。この方は武神の加護をもち、神獣の御子様の護衛長を務めている方なのだから」
偉い筋肉のようです。
「ははは、無理ねぇさ。お前さんら家族はあのくそ野郎の被害者だからな。俺も日本人だからと油断したよ。済まん事をしたと思う、俺にも罰を与えてくれていいのにな……」
偉い筋肉はそういうと遠い目をする。
「まぁいい、規則だ。とりあえずお前ら視させてもらうぞ」
そういうと偉い筋肉から優しい光が俺たちを包んだ。
「OKだ、お嬢様方がお待ちだぜ」
そして私はリードでつながれたままポチタマウッサと再会するのでした。
……ー、外してもらうの忘れてた!
いや~~~~~~~~~~~~~~~、尊厳さんまでいなくなっちゃう!
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