第726話気づいた由紀(5)
夕方になった。
母美智子は帰って来たけれど、史は帰って来ない。
由紀
「ねえ!史は?この寒いのに!」
由紀としては、史の顔が見たくて仕方ない。
それと、風邪を引きやすい史なので、心配している。
美智子
「史は、大旦那と一緒」
「史の今後のことに関係する打ち合わせ」
由紀は、それでは意味がわからない。
「ねえ、何を隠しているの?」
「しっかり言って!」
ついつい文句口調となる。
美智子は、ヤレヤレと言った顔。
「あのさ、どうして、史のことに口出しばかり?」
「史にだって、大事な用事があるの」
そこまで言って、しかたないと思ったようだ。
「あのね、史は、大旦那の財団というか、一族をあげて音楽家としての史を応援するの」
由紀
「うん、それは知ってる」
美智子
「でね、史はかつて芸能プロダクションの騒動の時にね、大旦那が会長を務める京都の所属させたのは覚えているよね」
由紀
「うん、それがベスト」
美智子
「それでね、音大に入れば、もうプロにしようとね、音大の学長さんにも話をつけたの、大旦那と芸能団体がね」
由紀は頷いた。
「そうか・・・史がプロか・・・アマチュアのレベルではないよね、特にピアノは」
美智子
「それでね、マネージャーが必要なの、史のことを、よくわかったマネージャーがね、今は、その選定をやっている」
由紀は、ホッとした。
「そうか・・・仲間ハズレだったから、乱入しようと思ったけれど・・・」
「話がそのレベルではない」
「乱入しなくてよかった」
そこまで話して、母美智子が、少し寂しそうな顔。
「史ね、なんか・・・変わった」
由紀
「うん・・・私も・・・感じる」
美智子
「別世界の人になるような気がした」
「母親でも、入り込めない世界の人」
由紀の顔も沈んだ。
「史の顔が見たいなあ」
「思いっきり文句を言ってきてもいい、でも見たい」
美智子が、由紀の顔をじっと見る。
「史から話があるよ」
由紀は、ドキンと胸が鳴った。
「え?何のこと?」
美智子は首を横に振った。
「史から言わせる」
美智子は、少し涙ぐんでいる。
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