第720話史の引っ越し準備(3)
結局、史が大旦那と奥様に頼んだ「欲しいもの」は、「テーブルと本棚」だけだった。
大旦那は、少し笑った。
「欲がないなあ」
奥様は、フンと頷いて
「本棚は京都から職人に来てもらおうかなあ、テーブルも作ってもらって」
「加奈子ちゃんの部屋も作るから、その方がいいかな」
と、具体的な話。
史は、
「ありがとうございます、それなら安心です」
と、頭を下げる。
大旦那は、また笑う。
「気にしなくていいよ、私たちが、そうしたいんだから」
奥様も、笑う。
「史君が、にこにこしている顔が好きなの」
マスターは苦笑い、
「そうだね、由紀ちゃんといると、顔が沈んでいるよね」
史も、頷く。
「口うるさくて・・・面倒」
大旦那は、また笑う。
「それは史君が可愛いからだよ、心配のあまりさ」
奥様は史を諭した。
「こっちにきて離れて暮らすことになるけれど、時々は連絡をするとか、声をかけてあげなさいね」
マスターも続く。
「それは、晃さんとか美智子さんにもね、たまには家に帰るとかね」
史は、大人しく聞いている。
一応の話がついたので、史はお屋敷を出た。
マスターも一緒に出た。
マスター
「家まで送ろうか?」
史
「洋子さんとお話の予定があるんです」
マスター
「何かあるの?」
史
「はい、カフェ・ルミエールのホームページの喫茶部のデザイン変更をしようかなと」
マスター
「そうだね、あまり更新できてないよね」
史は頭を下げた。
「ごめんなさい、あまり手が回らなくて」
マスターは首を横に振る。
「いやいや、史君は忙しすぎたしね、こっちも頼み過ぎたかなあ」
史は、少し考えて
「音大に入っても、練習やらコンサートで、しっかり出来るかなあ」
マスターも少し考える。
「文化講座事務局に頼んでもいいかなあ」
「華蓮ちゃん、道彦君、亜美さんもできるはず」
史の目が輝いた。
「あ・・・そうか・・・それなら気が楽です」
「いつも気になっていたので」
マスター
「そうなると、文化講座事務局3人と洋子さん、史君を交えて、夜の部で会議したら?俺から連絡するよ」
史は「え?」と言う顔をするけれど、マスターはどんどんメッセージを送ってしまう。
マスターには、すぐに返事があった。
「文化講座もカフェ・ルミエールも全員参加」
「俺も美幸ちゃんも話を聞くよ」
ただ、少し苦笑い。
史が、首を傾げると、マスターが済まなそうな顔。
「たまたま、由紀ちゃんが、カフェ・ルミエールにいて、話を聞いてしまったらしいんだ」
「絶対、参加するって言い張っているみたい」
「あの・・・混乱しか招かない・・・姉貴?」
史は、頭を抱えている。
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