第714話加奈子と里奈(3)

加奈子が品川駅新幹線改札口に姿を見せた。

里奈が、大きく手を振り、

「加奈子ちゃーん!こっちーー!」

と、大きな掛け声。


加奈子も、それに大きな声で答える。

「はーい!ありがとう!里奈ちゃん!」


周囲も驚くような掛け合いの中、里奈、加奈子、史は対面。


駅内を歩きながら、

「寒くなかった?」

加奈子

「新幹線の中やから、別に大丈夫や」

「京都はメチャ寒かったけど」

里奈

「逢えてうれしい」

加奈子

「うちもや、わくわくしとる」


山手線に乗り込んでも、会話は続く。

ただ、ほぼ加奈子と里奈だけの会話。


加奈子

「史君の小さな頃のお話?」

里奈

「うん、聞きたい」

加奈子

「可愛かったけれど、泣き虫だった」

里奈

「へえ・・・そうなんだ」

加奈子

「由紀ちゃんにね、おせんべい取られて泣いて」

里奈

「うん、いまでもかなあ」

加奈子

「泣いたのを叱られてまた泣いて」

里奈

「全然、変わっていない」

加奈子

「史君、それで華蓮ちゃんに走って逃げる」

里奈

「華蓮さんは、いいお姉さんって感じですよね」

加奈子

「それで、由紀ちゃんが、またむくれる」

里奈

「へえ・・・わかるような」

加奈子

「ねえ、里奈ちゃん、史君、学校では?」

里奈

「最初は、モテモテで、今もそうです」

「一年生の時にね、柔道の授業でね」

加奈子

「うん、それを聞いた、史君、落ち込んだんでしょ?」

里奈

「はい、学園やめるとか、自分が悪くないのに落ち込んで」

加奈子

「それを里奈ちゃんが、毎日お迎えにいって」

「暑い日も寒い日も」

里奈

「うん、家も近かったけれど、そんなの関係ない」

「私は、毎朝、史君がどんな顔をしていても、顔を見たいんです」

「最初は、他の女子から文句を言われたけれど」


加奈子は、グッと胸にこみあげるものがあるらしい。

少し涙目になった。

「それを、押し通してくれたんやね」

「ありがとう、うれしいな」

「史君ね、時々、メチャ落ち込むの」


里奈は、加奈子の手を握った。

里奈も、少し涙ぐむ。


加奈子は、うつむいている史を少し見て

「ほんまや、里奈ちゃんがいなかったら、そこまで頑張ってくれたから」

「史君が、やってこれたんや」


里奈は、落ちついた顔。

「私は、史君が好きなんです、とにかく一緒にいたい」

「それだけ、ずっと一緒にいたいだけなんです」

そして加奈子の顔を見た。

「何があってもです」


加奈子は、何も言わなかった。

ただ、グッと里奈の指を握り返すだけだった。


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