第649話加奈子の上京(3)

さて、母美智子と由紀が焼いたケーキがテーブルの前に置かれた。

加奈子は本当にうれしそうな顔。

「あの伝説の名パテシィエ美智子叔母さんの特製ケーキ・・・」

「はぁ・・・チョコレートの温まった素晴らしく高貴な香り」

「少しブランデー?コニャック?それを感じる」

「リンゴの爽やかな風味と甘さ・・・それとシナモン・・・」


大旦那は一口食べて、目を閉じた。

「これは・・・シンプルなケーキだけど、味は宝石だなあ・・・」

「美味しいを通り越している」


奥様は味わって食べている。

「この絶妙なリンゴの食感・・・コク・・・チョコレートもすごいわねえ」


美智子も満足そうな顔。

「これは洋子さんとの合作、今度カフェ・ルミエールの新作に加わります」


由紀も、しっかり食べている。

「そうだね、クリスマスのケーキにもいいね、デコレーションするといいかなあ」


ただ、史は例によって少し考えている。

「ホイップクリームとか使うの?そのほうが、まろやかになるかなあ」

「見栄えもよくなると思う」


由紀は、その史の意見に

「また、講釈?」

と言いかけるけれど、母美智子がさっと反応。

「そうね、史、お店で出すときはそうかな、洋子さんが言っていた」


史は、それでフンと頷き、加奈子は笑顔。

「さすがやな、史君」

と、気に入らなそうな由紀を、制してしまう。


そんな加奈子に大旦那。

「それでも困難な倍率が高い文学部に推薦とは、加奈子も努力したな」

奥様も、またうれしそうな顔。

「源氏の有名な先生もいますね、若手のすごい人も」


加奈子は、顔を少し赤らめて

「ここのお屋敷にお世話になるので、よろしくお願いいたします」

「それと、一度は京都を離れたかったので」

と、頭を下げる。


美智子が加奈子に声をかける。

「困ったことがあったら、私たちにも声をかけてね」

「由紀も史もいるから」


由紀が加奈子と握手をしていると、史

「あの、お昼は加奈子ちゃんが、学生街の定食って言っているので、そこに行きます」


大旦那は、うれしそうな顔。

「そうだなあ、この屋敷だと上品なものになるよな」

「俺だって、若い頃は、かつ丼の大盛とか、美味しかったなあ」


奥様は、笑い出した。

「ねえ、今じゃあ、モタモタして無理よね」

「行ってらっしゃい、若い人は若い人で」


加奈子と史は、奥様の言葉を受けて、立ち上がる。

由紀も立ち上がったけれど、一歩遅れた。


おまけに史の一言が由紀を刺激する。

「姉貴、ダイエットだよね、美味しいトンカツの店に行くけれど、残念だね」


由紀は、顔が真赤。

そして、大笑いをされている。


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