第558話パワハラ上司と部下、そしてマスター(2)

総務部の部下に反論された営業部の部長は、かなり顔を赤くして、機嫌が悪くなった。


しかし、叱り続けられた総務部の部下は、冷静に反論を続ける。


「こちらとしても、営業部の方々の苦労と素晴らしい実績には感謝はしているんです、それもしっかりと経営者にも伝えております」

「私としても、営業部指導の部長の御力については、尊敬申し上げているんです」

「それでも・・・」

その部下は、しっかりと部長の顔を見る。


部長が、少し引くと、また部下は反論を続けた。


「少々の営業成績が落ちたから、その人の前で左遷するとか、辞めろとか」

「ただ飯食らいの総務部に回せとか、大声で廊下で話してみたり」

「私は構いませんけれど、中にはショックを受けて、心療内科に通う、あるいは退職相談までかけてくる人もいるんです」

「それと、家族の病気の際にも、休むことを許さなかったとか」

「忌引きにも文句をつけたとか、せいぜい2日にしろと、出張命令までだして」

「残業も多すぎます、どうして毎日11時過ぎるんですか?」


営業部の部長は、黙ってしまった。

責めには強いけれど、反論には弱いタイプなのだろうか。



ずっと聞いていたマスターがポツリ。

「いわゆる滅私奉公型、突撃型、昭和世代ではよく聞く話だな」

「当時は、周囲もそれが当たり前だった」

「企業が第一、私生活は二の次」


美幸は難しい顔。

「問題が発生しないと・・・過労死とか、それもマスコミなどで大きく取り上げられないと、企業は対処しない」

「その対処も、まずは自らの責任を否定するし、なかなか解決されない」


マスターは美幸に目で合図。

そして、キッチンにこもった。


美幸もマスターの意図を察した様子。

二人のサラリーマンの席に、熱いほうじ茶を届けた。


部長は目を丸くした。

「え?これは?」

部下も、意味不明な様子。


その二人に美幸は、ふんわりとほほ笑む。

「今、マスターが特別料理を作ってきますので、少しお待ちください」


さて、マスターは、何を作っているのだろうか。








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