第489話史と洋子の不思議なデート(11)

宴がようやく終了し、史と洋子は帰ることになった。

ルクレツィアは、また史と洋子の前に。


「洋子、ありがとう」

洋子への言葉は、その程度。


何しろ、史への言葉が多い。

「史君、最高だった、いつでもフィレンツェにおいで」

「私の屋敷でいいよ、家賃もいらない、食事から生活から全てお世話する」

「史君が了解してくれれば、スポンサーになりたい」

「史君とフィレンツェを起点として、ヨーロッパ演奏旅行もいいなあ」

「ほんと、演奏が会場でも超受けていたし、動画を本国に送ったら、称賛メールばかり」

・・・・・

とにかく、「史が欲しい」の連続になった。


洋子は、呆れた。

「あのさ、ルクレツィア、史君はまず、日本の音大に入るの」

「それから、イタリア語とか、英語とかフランス語も学ぶの」

「イタリア留学は、その後」

洋子としては、かなり興奮気味のルクレツィアに、多少は冷静になってもらいたい。

それと、もう一瞬でも早く、ルクレツィアから史を引きはがしたい。


その当の史は、温和な顔。

「洋子さんの言う通りでして」

「出来れば語学をしっかりして、細かいニュアンスもわかるようになってから」

と、ルクレツィアに笑いかける。


しかし、ルクレツィアは、なかなか引かない。

「いやいや、日本の音大なんて言っていないで、直接ヨーロッパの音大においで」

「私と私の家が紹介状を出す、いやバチカンのお偉いさんも連名にする」

とにかく、相当史に興味を持った様子。


ただ、史は冷静。

「ルクレツィアさん、本当にありがとうございます」

「しっかりと、その光栄なお話、検討させていただきます」

そして、すっとルクレツィアの手を握る。


ルクレツィアは、ますます真っ赤な顔。

そして、次の行動も、容易に想像できた。

あっと言う間に、またしても史を思いっきりのハグで包み込んでしまった。


洋子は、ここで本当に腹が立った。

「はい、もうタクシーが迎えに来る頃」

「ルクレツィア、これ以上は却下」

「史君、苦しそう、力込め過ぎ」

と、強引にルクレツィアを引きはがす。


しかし、ルクレツィアもさるもの。

「じゃあね、史君、ヨーロッパの相談は全て私にね」

「いい?洋子に相談する前に、私にね」

身体は引きはがされたものの、史に投げキッスをしてくる。


史は、結局、ルクレツィアと洋子の視線バチバチの中で、ため息をついている。



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