第481話史と洋子の不思議なデート(3)

史と洋子を乗せたタクシーは、瀟洒な洋館の門で停車した。

二人がタクシーから降り、広い庭を歩いていくと、玄関前で大きく手を振っている中年の女性が見えた。


洋子は、史に説明をする。

「彼女なの、史君に興味を持って招待してくれた人」

「イタリアのフィレンツェ出身、貿易会社の重役、といっても先祖代々だから後継ぎかな、ルクレツィアって名前」

史は、洋子の説明を受けて、

「へえ、昔のメディチ家にそんな名前の有名な人がいましたね、それにしても・・・すごそうな人」

と、少し遠いけれど、その「ルクレツィア」に軽く会釈をする。

洋子は、史の反応に少し笑った。

「ふふ、史君の歴史好きだなあ、でも、ルクレツィアは確かにすごいって・・・どこ見ているの?」


そんな話をしていた二人は、とうとう洋館の玄関、ルクレツィアの前に着いた。

洋子が

「お久しぶりです」

と、笑いかけた時まではよかった。


史が、いつもの通り、キチンと頭を下げ、

「このたびは、ご招待にあずかり」

と言いかけた時である。


ルクレツィアが、いきなり史を強力なハグで包み込んだ。

「あらーーー!あなたが史君?」

「ほんと、来てくれてうれしい!」

「美男子ねえ・・・やはり・・・私、ずーっと待っていたの!」

とにかく、豊満な身体を押し付けて、史を包み込む。


これには、洋子も呆れた。

「ルクレツィア、やり過ぎ!ここはイタリアじゃないって!」

もう力ずくで、ルクレツィアを史から、引きはがした。

史は、かなり苦しかったようで、ゼイゼイしている。


ただ、ルクレツィアは、ニコニコと笑っているだけ。

洋子の呆れなど、全く意に介していない。

そして史に

「史君、もっとたくさん食べて、肉をつけよう」

「今日は、イタリア料理をしっかり食べて」

と言って、史にウィンク。


史が「え?」という顔になっていると

ルクレツィアは、また史にウィンク。

「洋子なんて、どうでもいいから、私とデートしよう」


洋子は、そんなルクレツィアに本当にあせった。

そして、もう我慢できなかった。

強引に、史の腕を組んでしまった。


史は、やっとゼイゼイがおさまったけれど、ため息をつく。

「はぁ・・・何?この人たち・・・視線バチバチしてるし」

「お腹が重たい夜になりそうな気がする」


ルクレツィアは、史を洋子に取られても、まだ余裕のある笑みを浮かべている。






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