第399話史と里奈の鎌倉散歩(3)

史と里奈は、北鎌倉に到着した。

駅を降りると、目の前に円覚寺の階段、そして山門が見える。

史は、里奈に声をかけた。

「まず、円覚寺から、少し歩くけれど」

里奈はニッコリ

「うん、大丈夫、足腰は鍛えてあるよ」

そのまま、史にスッと寄り添い、一緒に階段をのぼり始める。


境内に入り

「あの山門も、ドッシリとしていていいなあ」

と言うと

里奈は

「心をサッとまっすぐにされる感じだね」

と、山門に見入っている。


二人は、真っ直ぐに進み、さらに大きな仏殿の前に立つ。

仏像や白龍を描いた天井画などを見ながら

「いつきても、厳かな感じ」

里奈

「厳かで、心がスゥッとする感じ、やはり禅宗だから?」

「そうだね、それもあるねえ」

と、いつもの気苦労などは抜けて、ホッとした顔になっている。


二人は仏殿への参拝の後は、隣の選仏場へ向かう。

名前の意味としては、仏を選び出す場所という意味で、修行僧の坐禅道場。

両側には畳敷きの座禅をする場所があり、奥の中央には南北朝時代の薬師如来像が中央に祀られ、大慈大悲観世音菩薩像が安置されてる。

「薬師様かあ、なかなかいいな」

里奈

「薬壺を持っておられるのね、それにね観音様のお顔がすごく優しい」

「大きな慈悲を与えてくださる観音様だね、本当に優しい顔なさっている」

と、二人はここでも、しっかり手を合わせている。


選仏場を出た二人は、左側に妙香池を見ながら坂道をのぼりだした。

「池の向こう岸の岩を、虎頭岩って言うんだって」

里奈

「へえ・・・そう見たんだね、いろいろ考えるなあ」

史は、そこで少し笑う。

「ところでさ、里奈ちゃん、何か見えない?」


里奈は、突然、そんなことを言われて目を丸くする。

「え?何?何も・・・普通の池だよ?」

史は、またしても少し笑って

「えっとね、この妙香池ってね、不思議な霊体が潜んでいてね、時々写真を撮ると映るとか、写真そのものがピントがボケるとか・・・」

と、思わせぶりなことを言う。


里奈は、そこで焦った。

そして、すごく怖くなった。

「もう!史君!私、お化けとか、すっごく怖いの!」

「そんなこと言うから!」

里奈は、結局、史の腕を組んでしまった。

その顔は真っ赤になっている。


さて、腕を組まれてしまった史も、また真っ赤な顔。

「・・・あの・・・すぐそこに、時宗公の廟があって抹茶とお茶菓子が」

と言い出すけれど、


里奈

「やだ、このままがいい」

さらに組む腕の力を強めている。


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