第359話京都での披露宴(2)

大旦那は、挨拶を続けた。

「この佳宏が、様々理由があって、一時私たちの前から姿を消した」

「それは、本当に寂しくも悲しくもあった」

「そして、どれほど、みんなが心配をしたか」

大旦那は、そこまで話して、マスターの顔を見る。

マスターは、下を向き、難しい顔になっている。


大旦那は話を続ける。

「しかし、佳宏は、やはり、我が弟宏と佳子さんの息子」

「ただものではない、強い男だった」

「何しろ、裸一貫、自分の力だけで、あの横浜の老舗ホテルの厳しい修行に耐え」

「そして、老舗ホテルだけではない、日本でも有数の名シェフとなった」

「この私も、何度も佳宏の料理を味わった」

「本当に骨の随まで、気骨あふれる料理だ、食べるたびに感動する」

「本当の美食とは何であるか、よくわかっている」


大旦那は再びマスターを見て

「そして佳宏は、あの名門ホテルから独立、今は都内でカフェ・ルミエールという、これまた素晴らしい喫茶兼、レストラン・バーを経営している」

「地域の人々にも、素晴らしく好評」

「また、カフエ・ルミエールの名を関したオーケストラを作り、これも地域をはじめとして音楽界においても、高い評価をいただいている」


大旦那は、今度は一族に向いた。

「本当に、自分だけの力で、これほど成功したんだ」

「私たちのように、一族の名前も力など、何も使わずだ」

大旦那の声がそこで詰まった。


そして


「私は・・・」

声が涙声になった。

「佳宏は、本当に素晴らしい、強い男だと思う」

「それから、佳宏の伴侶となった涼子さん、佳宏を選んでくれた涼子さん」

「それから二人の間に生まれた真珠のごとく愛らしい祥子ちゃん」

「全てを、うれしく誇りに思う」

「何より、この集いに戻ってきてくれたこと、うれしくてならない」

「みんな、この佳宏の一家を、頼む、ずっと末永く・・・」

大旦那は、ここで顔をおおって泣き出してしまった。


もはや、言葉が何もでてこない。

奥様が、さっと立ち上がり、大旦那にハンカチを差し出している。


執事吉川が、マスターの前に立った。

そして

「佳宏様、全員が佳宏様のお話を待っています」

「大旦那様も、おそらくそのお気持ちで」

と話しかける。


マスターは、その言葉に頷いた。

「わかった、大旦那が長かったから」

「でも、まとまるかなあ」

「なあ、涼子」

と、涼子の顔を見る。


・・・が・・・

涼子も顔をおおって泣いてしまっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る