第344話披露宴(4)なれそめ

マスター、涼子、祥子の披露宴が、このホテルならではの豪華かつ歴史を感じさせるホールで始まった。

会場にはマスターと涼子に関係のあるホテル関係者、様々なレストラン、料亭、ケーキショップ等の料理業界、さすがにマスターの知り合いが多く、大きなホールは満員の状態になっている。


司会は、史、隣には由紀が立った。


仲人は特にないので、史の司会で晃がマスターと涼子のなれ初めの話を始めた。


「それでは、これからマスター、いや佳宏様と涼子様、それから天使のように可愛らしい祥子様のなれ初めなどを紹介させていただきます」

「まず佳宏様は、皆様御存知の通り、この横浜の歴史とも言えるような名門ホテルで長年シェフを務め、今は都内でカフェ・ルミエールを開き、様々な御客様から大好評をいただいています」

「そして、元々は京都の生まれ、そして私にとっては、大切な従兄弟にして悪友であります」

晃のそんな紹介を聞いて、マスターはククッと笑い、涼子はニッコリと晃に笑いかける。

また、ホール内の出席者も、ここまでは周知のことであるけれど、大拍手がおきてしまう。


晃は紹介を続けた。

「そして涼子様、彼女についても、皆様が全て御存知の通り、ここのホテルの出身、現役時代は超名人クラスの接客係です」

「様々な素晴らしい接客、アドヴァイスを受けられた方も、本日ご列席の皆様には多いと思われます」

晃の紹介で、涼子はその顔をパッと赤く染めた。

その涼子の手を、マスターがそっと握る。

その二人の様子を見て、出席者からまた大きな拍手がおきた。


晃はまた説明を続けた。

「さて、ここで、佳宏様と涼子様との、なれ初めに移るのですが」

とまで、言ってマスターと涼子にウィンク、何か意味ありげである。

マスターと涼子が「え?」と言う顔になるけれど、晃は話し続ける。


「いや、とにかく、この二人にとって、なれ初めも何もないんです」

「実は、二人は周囲が妬けるほど、実はホテル時代から、好きで好きで仕方がなくて」

「本当は、二人ともそう思っていたんだけど」

「とにかく、佳宏様、もう・・・マスターって言ってしまいますが、女性に対しては不器用そのもの、あの繊細と技術を尽くした料理のほんの1%でも女性の思いに気づかなくて」

ここで、マスターへの笑いが起きるけれど、マスターは笑っている。

「ふん、晃さんみたいな源氏学者じゃないって、そんなものわからん」

そのマスターの手を涼子は強く握る。


晃は続けた。

「そして、どうにも不器用なマスターに涼子さんが、我慢ができなくなった」

「突然、マスターの部屋に行こうと思ったんですよね、涼子さん」

「そんな涼子さんの背中を、愛の女神の御力が、押した」

「そうです、心を決めて、マスターの所へ行きなさいと」

「いつまでも、ためらっている場合でない、あなたしかマスターの妻になれる女性はいない」

「ほら!さっさと歩いて!」

「そしてマスターの部屋に入ったら、二度とその部屋から出てはいけないよって」

「そういう愛の女神のご指示があったのですよね、涼子さん」

晃のその言葉で、涼子は泣き出してしまった。



※マスターと涼子のなれそめなどについては、短編集の43,49,75をお読みいただけると、幸いです。

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