第223話悩みこむ史(2)

里奈は、由紀の顔を見た。

「おそらく、新聞部の顧問の稲葉先生だと思います」

由紀も、稲葉の名前で感づいたようだ。

「ああ・・・あいつかあ・・・いつも嫌味タラタラ、プライドだけはメチャ高くて、超細かくて陰険で」

里奈

「史君だと言わないだろうから、少し他の新聞部の子に聞いてみましょうか」

由紀

「うん、私も一緒に聞く、でもさ、あまり派手に動かないほうがいいね」

里奈

「そうですね、稲葉先生の耳に入ると、また何かありそうで・・・」

ということになって、昼休みに新聞部の山本麻衣に「事情」を聞くことにした。


由紀が山本麻衣に頭を下げる。

「ごめんね、麻衣ちゃん、内緒で呼んだりして」


麻衣は

「ああ、いえいえ、私も昔からすごく気になっていて」

「それに内緒じゃないと、また史君へのイビリがすごくなるので」

本当に難しい顔になる。


由紀は里奈と顔を見合わせた。


「昔から?」由紀

「史君にイビリ?すごいの?」里奈


麻衣は、ますます難しい顔になる。

「はい、稲葉先生って、特に史君には、ものすごい陰険なイビリをするんです」


由紀は、本当に気になった。

由紀

「例えば?」

実例を知りたいと思った。


麻衣

「例えば、史君が少しでも先生の気に入らない文を書くと」

由紀

「・・・うん・・・」

麻衣

「稲葉先生は、『有名大学教授の息子?大したことないねえ』とか『お前の親父も、マスコミ芸人学者だからなあ、大した本も書かず』とか」


由紀の顔が「ムッと」赤くなる。


麻衣は話を続けた。

「史君が合唱部の指揮とか、カフェ・ルミエール楽団に入っているのも気に入らなくて、ひどいことを言うんです」


里奈は

「どんな?」

と聞く。

里奈も、少し怒っている。


麻衣

「稲葉先生は、『新聞部としての仕事をないがしろにして、音楽ねえ・・・・』とか、『何が合唱部の指揮?楽団のピアノと指揮?校長と地域に取り入っているだけだろ?この二股三股男め、やはり芸人源氏学者の息子だなあ』とか」

「それも大きな声では言わず、ほとんど聞こえるか聞こえないほどの小さな声です」

「それに少しでも史君がムッとした顔をすると、何?教師にそんな目をしていいのかとか、お前の部活動実績の内申下げまくるぞとか・・・」

「とにかくイビりまくりです、新聞部内では・・・」

「私たちは、史君の書く文章のほうが、先生の書く文章よりは余程読みやすくて上手と思うんです」

「それを先生に言うと、有名学者の息子なんだから、そんなの当然だで逆ギレされるんです」

「史君、新聞部の仕事は私達の分まで手伝ってくれるし、ないがしろになんかしていないです」

「本当に史君、よく我慢しているなあと」


由紀

「そうだったのか・・・ずっと黙っているし・・・あのアホ・・・」

「本当は音楽大好きなのに・・・それで新聞部から出られないのかな」


里奈は

「可哀想過ぎる・・・それってイジメだよ・・・」

泣き出してしまった。

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