第221話マスターと地域の会話

マスターは、腕を組み、いろいろと考えている。

「楽団のコンサートには全面協力だなあ、その日は店を休もう」

「そもそもこの店の名前がついた楽団のコンサートの日に、ここで営業をしているのも、おかしな話だ」

「それから、文化講座か、大旦那も源氏を語りたいと言っているしな」

「源氏とか古典だけではイマイチだ、違う系統の講座も開きたい」

「洋菓子講座、和菓子講座、料理講座もできるなあ」

「地下ホールも有効活用を考えたほうがいいな」

そんなことを考えていると、橋本自治会長とカフェ・ルミエールに野菜を提供してくれている農家の深田と若月が入ってきた。


橋本自治会長

「マスター、何とかコンサートの会場は抑えた、区長も期待しているよ」

にっこりと笑っている。

マスターもホッとした顔。

「はい、本当にありがとうございます、精一杯の演奏をさせていただきます」


今度は農家の深田から

「マスター、おれたちも期待しているから、チケットたくさん頼むよ」

マスター

「いや、それはありがたい」

と頭を下げる。

若月は

「いや、そもそも凄い楽団だし、指揮者も超有名で、史君も出るんだからチケットを確保しとかないとさ」

マスター

「ああ、そうですねえ、この店にも引き合いが多いですよ、アマチュア楽団なのにね」と苦笑い。


橋本自治会長は、話題を変えた。

「ところで選挙になるんだけどさ」

マスターは、少し顔を引き締める。

深田が自治会長の次に

「マスター、お願いがあるんだけどさ」

マスター

「はい・・・」

すると若月

「お願いしたいのはさ、選挙で地下ホールは使ってほしくない」

とマスターを見る。


マスターは

「ほお・・・逆のことを言われるかと」

また、苦笑する。


橋本自治会長

「まさか、このカフェ・ルミエールだけは、そういう政治がらみの話には使って欲しくない」

深田

「うん、地域とかお客さんに、直接役立つ店でいてもらいたい」

若月

「ね、頼むよ」

と、三人とも頭を下げる。


マスターは、うれしそうな顔になっている。

そして、

「私からもお願いがあるんですが」

と、特に農家の深田と若月に頭を下げた。

深田と若月が、驚いた顔でマスターを見ると

マスター

「一度ね、園芸教室とか、野菜教室をお願いしたいんです」

「夜のお客さんもね、どうすれば、これほど美味しい野菜ができるのかって、質問が多いので」

「いつも聞かれてね、説明しきれなくて」


橋本自治会長

「よし、自治会も参加する!」

深田

「任せておいて!」

若月

「いや、そういう話は女房が喜ぶなあ」

・・・・・・


その後は、深夜まで農業談義で盛り上がった。

他の多くの客も興味があるようで、臨時の農業講座になってしまったほどである。


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