第216話秋の演奏会に向けて(1)

カフェ・ルミエール楽団の秋の演奏会を期待する声が高まっている。

それについて、指揮者の榊原氏、声楽家にして合唱部顧問の岡村氏、ピアニストの内田先生、コンサートマスターや各パートのトップなどが、カフェ・ルミエールで打ち合わせを行うことになった。

そして、「ほぼ当然」のように史も呼ばれ、話し合いに加わっている。

もっとも史は、マスターからも大旦那からも、「話し合いに参加しなさい」と言われ、少し面倒そうな顔をしている。


榊原が口火を切った。

「クラシックの演奏会なので、序曲、協奏曲、交響曲というのが定番、その中でどの作品を演奏するのかという話になるね」

岡村は

「そうだねえ、声楽家としては、歌もいれたいなあ」

内田は

「史君のピアノも聴きたいのね、お客様は期待していると思うよ」


ただ、史は、イマイチ表情が浮かない。

「この間は無理やりでしたので、ピアノ協奏曲でなくても」

と完全尻込み状態、いつもの引っ込み思案が顔をのぞかせている。


コンサートマスターの佐伯は

「外部から、ソリストを呼ぶとお金かかるしねえ」

と現実的な話。

管楽器のほうのまとめ役の清水も

「もう一度、史君のピアノを聞きたいなあと言う声は多いよ」

と、史のピアノ協奏曲演奏を期待する。


そこまで言われた史は

「まず、序曲とメインを決めましょう、協奏曲は・・・うーん・・・」

またしても尻込みする。


ただ、他の打ち合わせメンバーは史の尻込みなど、眼中にない。

榊原

「モーツァルトも上手だよね、史君は」

岡村

「ショパンのコンチェルトでもピッタリさ」

内田

「どっちでも指導するよ、ブラームスもいいかなあ」

コンサートマスターの佐伯も管楽器のまとめ役の清水も、期待満面で史を見ている。


史は頭を抱えて考え込んでしまった。


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